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トレード物語

【トレード物語01】三冠王・落合博満のトレードをめぐる1カ月半【86年】

 

近年は少なくなってきたが、プロ野球の長い歴史の中でアッと驚くようなトレードが何度も行われてきた。選手の野球人生を劇的に変えたトレード。週刊ベースボールONLINEで過去の衝撃のトレードを振り返っていく。

「自分を一番高く買ってくれる球団と契約したい」


ロッテから中日に移籍した落合(左は新監督に就任した星野)


[1986年オフ]
ロッテ・落合博満⇔中日・牛島和彦上川誠二平沼定晴桑田茂

 ひとつの新聞記事が“三冠王・落合博満のトレード”に火をつけた。1986年11月5日付の毎日新聞。前日の4日、福岡市内で行われた「落合選手を励ます会」で、その年限りでロッテ監督を辞した稲尾和久氏は「去年のオフに巨人から落合トレードの話があったが、条件が折り合わずに蹴った」と語り、「原(辰徳)以外ならだれでも出すからトレードしてほしい」との申し入れがあったことまで明かしたのだ。

 落合はこの86年、2年連続3度目の三冠王に輝いている。さらに毎日新聞は落合のこんな強烈な談話まで載せていた。

「稲尾さんがいないのなら自分がロッテにいる理由はない。来年どこのチームにいるかは契約が済んでみないと分からない。もし、稲尾さんと自分をセットで雇ってくれるチームがあるなら、どこへでもついていく」

 もうこれはトレード志願だ。落合は翌5日、平和台球場での日米野球の試合前、「自分を一番高く買ってくれる球団と契約したい」と再び“衝撃発言”を行った。スポーツ紙は待ってましたとばかりに大騒ぎ。事態を重く見たロッテ球団は7日、帰京した落合を松尾代表が事情聴取した。

 聴取後の記者会見で松尾代表は「問題となっている発言については、表現の仕方に配慮に欠ける部分があり反省していると落合君から説明があった。これで一件落着にしたい」と語ったが、落合はその傍らで微苦笑するだけで「まあ、そんなところでしょう」とひと言。もちろん、“そんなとこ”どころではない。記者会見後、自宅に戻ってからこう言った。

「代表が読み上げたメモは、会談前からできたんですよ」

 一件落着どころか、落合のトレード劇はここから真のスタートを切ったのだ。

 11月16日、ロッテ・松井社長と翌年から指揮を執ることになった有藤新監督が会談。翌日、松井社長は「一般論だが……」と断って「トレードを申し込まれたら検討します」と発言。その舌も乾かぬ21日の納会では「落合をトレードするつもりはない」と一転。26日には韓国から帰国した重光オーナーも「落合を出すことはまずないでしょう」と否定的な見解を示した。

余裕が油断につながった巨人


ロッテの入団発表。左から平沼、上川、有藤監督、松井社長、牛島、桑田


 こうしたロッテ球団、落合の動きに前年「トレードを申し込んだ」巨人はどう反応していたのか。少なくとも表向きに動きはなかった。正力オーナーは「落合問題は凍結だが、暖かくなったら溶けだすかも」と語り(11月25日の納会)、王監督も「落合がロッテを出たとしても見返りの問題などがあり、どこも簡単には手を出せないと思うよ」と冷静だった。

 巨人は読んでいた。ロッテは必ず落合を放出すると。1億5000万円を要求すると見られていた契約更改(86年は推定年俸9700万円)……チーム内で浮いた存在……何より87年からは“ロッテのプリンス”と言われてきた有藤監督が采配を振る。やりやすい環境づくりは……落合放出の条件はすべて整い、“熟柿”は向こうから落ちてくる、これが巨人の読みだった。だから、水面下で交換要員にロッテが原、中畑清クラスを要求したのに対し、西本聖角三男松本匡史篠塚利夫らを挙げたことにもその一端がうかがえた。

 余裕は油断につながる。もし落合放出なら巨人絶対有利と見られていたなか、12月19日、中日・星野監督が「ウチはロッテに落合の譲渡を申し入れている」と発言、「取るとすれば出血覚悟」とまで言い切った。中日は当初、ロッテ側から要求のあった小松辰雄こそ拒んだものの、まだ25歳の若さで抑えの切り札だった牛島和彦と若手の成長株・上川誠二らを絡ませた交換案をロッテ側に示す。「落合を巨人に入れたくない」という星野監督と中日の“意地のツッパリ”だったが、ロッテも中日の意向を高く評価した。

 12月21日、正力オーナーが「ロッテが動けば凍結の解消もある」と初めて積極的になったときには、すでに遅かった。23日、ロッテと中日両球団は「世紀の大トレード」の合意に達したのだった。

写真=BBM
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