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石田雄太の閃球眼

【石田雄太の閃球眼】アドバンテージ1勝はいらない

 

アドバンテージ1勝をモノともせず、4連勝で日本シリーズに進出したベイスターズを支えたクリーンアップトリオ


 出た出た……きっと出るとは思っていたが、やっぱり出た。

 クライマックス・シリーズ(CS)のファイナルステージで、ベイスターズがカープを倒し、日本シリーズ出場の権利を得た。セ・リーグ3位のチームがリーグ優勝を成し遂げたチームを差し置いて日本一に挑むとは何事か――これを理不尽だと考える野球好きは一斉に叫び始めた。彼らがよく口にするフレーズは、この3つだ。

1=いったい、何のための長い長いレギュラーシーズンだったのか。
2=14.5ゲーム差も離れていたのにアドバンテージがたったの1勝なんて納得できない。
3=こんな釈然としない思いをさせられるCSなんてやめてしまえ。

 CSをやめろというのなら、それは検討する価値はある。そもそもNPBは両リーグ6球団ずつの12球団しかない。そのうちの半分が日本シリーズへ進むチャンスを与えられるなんて、いかにも多過ぎるではないか。長いペナントレースを戦い抜いて勝ち得た優勝は何だったのか。そんなCSならやめてしまえばいい……確かにそうだ。ならば一考してみよう。

 12球団を3地区制にして地区優勝の3チームとワイルドカードでプレーオフ、という発想はセとパの文化に関わる問題なので、ひとまず横に置く。

 MLBは30球団のうち10球団にワールドシリーズ進出のチャンスを与え、しかも地区優勝していないワイルドカードのチームにはワンゲームプレーオフのハードルを設けている。この割合を日本に当てはめると、12球団のうち日本シリーズへ進めるチャンスを与えるのは3分の1の4球団。さらにリーグ優勝を果たせなかったチームにハードルを設けるとするならば、2位同士のプレーオフを行うという一案が出てくる。挑戦権を得られるのは1チームだけ。今年で言うならタイガース対ライオンズのチャレンジステージを5試合制で開催。勝ったチームが1位のチームと戦い、負けたリーグの優勝チームは事なきを得て、日本シリーズへ進出する。

 ちょっと待った。

 2位同士の決戦で負けたほうのリーグの優勝チームが楽をして、勝ったほうの優勝チームが厳しい戦いを強いられるのは納得できない。それなら2位同士が戦って、勝ったリーグはファイナルステージ1勝のアドバンテージから、負けたリーグは2勝のアドバンテージからなんていうのはどうか……そんな声が聞こえてくるに至っては、もはや本末転倒である。そもそも何のためのCSなのかという原点がどこかへ飛んでしまっているからだ。正論を語る野球好きが整理してくれたCSの原点は、この3つのフレーズに集約される。

1=CSとは、金儲けである。
2=そしてCSとは下克上の楽しみを提供することで対価を得る。
3=その楽しみを奪って観客からカネを取るのは詐欺である。

 つまりCSの醍醐味というのは、下克上が起こるかもしれないワクワク、ハラハラ、ドキドキを商売にする、ということに他ならない。そうでなければ、やる意味がないのだ。にもかかわらず、そのドキドキ感を奪い去るのが、アドバンテージという、公平を装った不公平なシステムなのである。公平を謳うなら金儲けを諦めてCSをやめるしかない。金儲けがしたいならアドバンテージなどやめたほうがいい。

 しかも、シーズンで10ゲーム以上離して勝った場合はリーグ優勝チームにアドバンテージ2勝、などというアイディアが出てくる。正直、1勝をナメるなと言いたい。9.5ゲーム差が1勝で10ゲーム差が2勝という発想こそ、ペナントレースの重みも、1つ勝つことの重みも蔑ろにする考え方なのだと思う。そうまでしてペナントレースの結果どおりに事を運ぼうというのは、誘導尋問に等しい。リーグ優勝をとことん讃え、そこで一区切りつければいいではないか。ペナントレースは日本シリーズの予選ではないのだ。CS反対派は、日本シリーズがペナントレース優勝の価値を貶めている、というふうには考えない。しかしリーグ優勝を果たしながら日本シリーズに負けたチームの監督が何人もクビになっている現実は、日本シリーズにそういう側面があったことを物語っている。

 ホークスが日本一になれば、短期決戦も強かったとさらに讃えればいいし(※4勝2敗で日本一に)、ベイスターズが日本一になれば、シーズンで強かったのはカープとホークスだったけど、でも今年のベイスターズは短期決戦に強かったね、ということでよかったではないか。だからCSをやるのならアドバンテージの1勝はいらないと、そう考えている次第――。

文=石田雄太 写真=BBM
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