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ベースボールゼミナール

【元巨人・鈴木尚広に聞く】ふくらんでリードを取る意味は?

 

読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は走塁編。回答者は“足”のスペシャリスト、元巨人鈴木尚広氏だ。

Q.中学生に指導をしています。ランナーのリードの仕方についての質問です。特に走者一塁、もしくは二塁のケースで、「(一直線よりも)後ろにふくらんでリードを取れ」というコーチがいました。そのメリットはありますか? また、アウトカウントなど、すべてのケースに当てはまるのでしょうか。カウントに応じてのリードの仕方の違いなど、教えてください。(北海道・30歳)



A.ケースによってはふくらんでリードを取るべき。次塁に斜めに入り減速せずにターンが可能。


イラスト=横山英史


 ベースとベースを結ぶ一直線上にリードを取るケースとしては、ランナー自身が盗塁を狙っている場面や、ベンチからバントサインが出ている場面を挙げることができます。特に無死もしくは一死で一塁、一、二塁などのフォースプレーのケースでは、最短距離で次の塁に進むために一直線上にリードするほうがいいでしょう。

 頭の良い内野手は、ランナーのリードのふくらみのあるなしで作戦を予想できてしまうこともありますが、バントなどはあらかじめ構えていることのほうが多いですし、中学生段階であれば、そこを気にする必要はないと思います。

 一方でふくらんでリードを取るべきケースというものも存在します。まず、なぜふくらんでリードを取る必要があるかというと、ランナー二塁であれば、三塁に到達することをターゲットにしているのではなく、その先のホームをとりやすくすることを第1に考えているからです。一直線上にリードを取ると、そのまま最短で走って三塁を回ることができないことは理解していただけると思います。

 ベースを利用してターンするとはいえ、人間はトップスピードで直角に方向転換することはできません。そのため、三塁直前にふくらんでからターンしていく必要があるのですが、ベース間を真っすぐに走ってからふくらむと、どうしても減速せざるを得なくなります。

 一直線上にリードを取らなければいけないときはこれもやむなしですが、打席にクリーンアップを迎えるケースでは強攻がメーンになるでしょうから、スムーズにホームを狙いたいですよね。そこで、リードを取る段階であらかじめベース間の一直線上よりも2歩ないし3歩分、後ろ側に“ふくらむ”ようにリードを取ってあげます。

 ここからは三塁ベースに一直線に走るわけですが、あらかじめふくらんでいるため、結果的に斜めに(鋭角に)入る形となり、トップスピードのままターンすることが可能です。もちろん、踏むべきは三塁ベースのインフィールド側、ホーム寄りの角。ここを目指して走ってください。なお、ふくらむ加減は大き過ぎても、小さ過ぎてもダメですから、練習からスムーズに入れる位置を探してみてください。

一歩手前で減速させて、ベースで加速が鉄則。ベースは加速させるための蹴る道具。


イラスト=横山英史


 今回はせっかくですので、ベースランニングについても併せて解説したいと思います。私は小さい円を描くイメージで回ります。二塁からの場合は半円、ということになるでしょうか。最も難しいのは最初のコーナリングで、例えば、一塁ランナーであれば二塁さえしっかり回れば、その後は割とスムーズに回れます。

 逆にここでうまく入れないと、大きくふくらんでロスが生じてしまいます。本当は一直線に近い形で走れれば、距離的なロスはないですし、これほど理想的なことはありません。ただし、実際はコーナー(ベース)を回る際に重心が外に向かっていくので、丸く走らなければならなくなります。その丸をなるべく小さくし、重心が外側に逃げないようにすることを練習から意識します。

 繰り返し「減速しないように」と解説してきましたが、これは極力そうしたいという理想であって、小さい円をイメージして走る中で、減速と加速が必要となります。どこで減速するかといえば、ベースの一歩手前。ここで減速させて、ベースで加速が私の中での鉄則です。

 もちろん、減速といっても多少のものです。多少の減速が必要な理由はベースに突入する段階でトップスピードに乗っていると、大きく体が外側に流れてしまうためで、あらかじめふくらんでベースに入っても少なからず影響を受けてしまいます。そのために減速するのですが、その分のロスを、ベースを蹴ってその反発力を得ることで補うのです。

 ベースはただの目標物(チェックポイント)ではなく、加速(スピードアップ)するための道具だと思ってください。ベースは踏むのではなく、加速するために“蹴る”のです。そう考えると、面白いと思いませんか?

●鈴木尚広(すずき・たかひろ)
1978年4月27日生まれ。福島県出身。相馬高から97年ドラフト4位で巨人入団。走塁のスペシャリストで、代走での通算盗塁数132は日本記録である。16年現役引退。現役生活20年の通算成績は1130試合出場、打率.265、10本塁打、75打点、228盗塁。
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