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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

トライアウトについて思うこと

 

トライアウト開始前。円になってスタッフから説明を受ける選手たち



 11月15日、マツダ広島で開催された12球団合同トライアウトを取材した。

 今季、あるいは2016年以前に戦力外となった選手が、さまざまなユニフォームを身にまとって参加。NPB復帰を果たすべく懸命のプレーが繰り広げられた。

 今回のトライアウトはシート打撃形式で行われ、投手1人につき、打者4人と対戦。カウントは1ボール1ストライクからスタートし、投手交代となるたびに走者はリセットされた。

 スタッフのスムーズな誘導もあり、トライアウトは滞りなく進行されたが、舞台裏の選手の声を聞くと、いくつかの戸惑いもあった。

 ある投手が口にしたのは、カウント1−1からの開始について。「ボール球が使いづらいので組み立てが難しい。野手もやりにくいのではないかと思います」。

 また、ある野手は走者一塁の状況で打席が回り、走者がスタートを切っていたためにチャンスボールに手を出すことができなかったと言う。「『あっ』と思ってしまって……。甘い球だったんですけどね」。

 当然、すべての選手がアピールに必死だ。足が売りの選手であれば初球からでも盗塁を仕掛け、自らの武器を見せたいことだろう。そこで打てるかどうかも含めて選手の力量だと割り切ってしまえばそれまでだが、トライアウトを経て、チャンスをつかむ選手はほんの一握り。中にはボールやバットを握るのが最後になるかもしれない選手がいる状況で、悔いを残すプレーは残念だと感じた。

 テレビの取材でスタンドからトライアウトを見守った元中日井上一樹氏は、「言い方は悪いかもしれないですが」と前置きしてこう続けた。

「視察に来た各球団の編成は、ある意味、アマチュア選手のような目で見ているかもしれません。単純に『ヒットを何本打った』というよりも、打者であれば打球の質やスイングを。投手なら多少コントロールは悪くても、いい腕の振りをしているとか、いいストレートを持っているとか、そういう部分を評価するのではないでしょうか。3打席、4打席だけで評価するのは難しい。『ウチでここをこうすれば、もっと良くなるんじゃないか』。僕ならそういうところに注目します」

 それならば、実戦形式だけではなく、ブルペン投球やフリー打撃、体力テストなどで素材を見る機会があっても良いだろう。日程や費用などの問題はあるが、多くの選手にとってはラストチャンスになるかもしれない舞台。より良い環境を求めたい。

 もちろん、合同トライアウト自体は素晴らしい企画で、また今回、携わったスタッフは選手たちが十分にプレーできるように配慮していた。

 例えば第1打席で四球を選び、打数調整のために最終組の4人目の打者となった脇本直人(元ロッテ)が再び四球に終わると、その場でカウント1ボール1ストライクからの打ち直しを指示。脇本は左前打を放ち、打撃をアピールすることができた。

 選手もスタッフも一生懸命だ。だからこそ、制度はまだ、見直す余地があるように感じる。球団、選手に一つでも多く良い出会いがあるように願う。


文=吉見淳司 写真=太田裕史
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