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石田雄太の閃球眼

【石田雄太の閃球眼】オオタニはアンラッキーか

 

メジャー挑戦の意思を明らかにした日本ハム大谷翔平


 ショウヘイ・オオタニはアンラッキーだね、とアメリカのエージェントがつぶやいた。彼がなぜ大谷のことをアンラッキーだと言ったのか、その真意を理解するためには5年前にさかのぼらなければならない。

 2012年の秋、大谷は高校から直接、アメリカへ行きたいと公言した。その場合、MLBの球団が支払える契約金は、NPBの上限をはるかに上回っていた。実際、ドジャース、レンジャーズなどは日本の上限を上回る額を大谷サイドへ提示していた。ただし、それは破格といえるほどの額ではなかった。たとえばドジャースは大谷に対してかつてないほどの高い評価を与えていたのだが、それでも大谷に破格の条件を提示できなかった。それはちょうど大谷を獲得したいタイミングで、MLBの新人に支払う契約金に新たな上限が設定されてしまったからだった。

 きっかけは2009年、スティーブン・ストラスバーグがナショナルズと史上最高額となる総額1510万ドルの契約を交わしたことにあった。これを機に新人との契約金の上限を設定すべきだという議論が沸き起こり、2011年の秋、MLBとMLB選手会との間で労使協定が交わされた。その中で、球団ごとのインターナショナルのアマチュア選手に対するボーナスプール(契約金の上限)が設けられたのである。その結果、各球団とも大谷に青天井の契約金が提示できなくなり、大谷に関するマネーゲームからは撤退せざるを得なくなってしまったのだ。

 そしてこのオフ、ポスティングシステムでのメジャー移籍を希望する大谷の前に、またもルール改正のカベが立ちはだかった。一度ならず二度までも、大谷がアメリカへ行こうと決心するたびにルールが変わったものだから、アメリカの代理人は「オオタニはアンラッキー」と言いたくなってしまったのである。その二度目のカベとなった、“25歳ルール”についてもう一度、整理しておこう。

 昨年の12月に締結されたMLBとMLB選手会による新・労使協定には、毎年7月1日の時点で25歳に満たない、海外のプロリーグでのプレーが6年未満の選手に対しては、支払える契約金の上限を最大で575万ドルに制限する、という条項が設けられた。2013年の労使協定の際には、罰金覚悟なら上限を越えることができたのだが、今回は原則、超過を許されていない。その上限額は収益によって475万ドルから575万ドルに決められており、この金額については上限の75パーセントまで、球団間のトレードが認められている。つまり575万ドルの球団は最大で1010万ドルまで増やすことができ、現状、これが大谷に支払える最高額の契約金ということになる。ちなみに以前の制度で罰則が科されている18の球団は、大谷に30万ドルまでの契約金しか支払えないことになっている。

 さらに25歳ルールによってマイナー契約を結ばなければならない大谷の場合、契約した球団に6年間の保有権が発生し、年俸調停の権利を有するまで(メジャー登録日数が原則3年)は、メジャー最低年俸の55万ドル前後(毎年変動)でプレーすることになる。この権利を得るまでは年俸の大幅上昇はあり得ず、もし入団して1〜2年後に、過去に例がない大型の複数年契約を結ぶようなことがあれば、契約時に密約があったとみなされ、MLBから重いペナルティを課せられることが確実視されている――今の大谷はそういう状況に置かれている。

 だからオオタニはアンラッキーなのか、と言われれば、もちろん答えはノーだ。二度もルール改正に泣かされて大金を手にできなかったとなれば、アメリカの代理人にはアンラッキーに映るのかもしれない。しかし大谷からすれば、この二度のルール改正は、むしろラッキーだったと言える。

 大谷はファイターズを選んだことで、ピッチャーとしてもバッターとしても高いレベルにあることをメジャーへ示すことができた。今回も25歳ルールによって破格の契約金、年俸を手にすることがなければ、球団、ファン、メディアに1年目から抜きん出た結果を求められることもなく、アメリカでの二刀流の運用をあれこれ試行錯誤する時間的余裕も生まれる。アメリカでもっと育ちたいと願う大谷にしてみれば、この条件はむしろ、願ったり叶ったりの環境をもたらしてくれるはずだ。大谷がメジャーで二刀流を実現できれば、カネなど、あとからいくらでもついてくるのだから――。

文=石田雄太 写真=BBM
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