近年は少なくなってきたが、プロ野球の長い歴史の中でアッと驚くようなトレードが何度も行われてきた。選手の野球人生を劇的に変えたトレード。週刊ベースボールONLINEで過去の衝撃のトレードを振り返っていく。 難航した契約更改交渉
[2013年1月]
日本ハム・
糸井嘉男、
八木智哉⇔オリックス・
木佐貫洋、
大引啓次、
赤田将吾 「糸井さんトレードとか、ありえん」
当時レンジャーズの
ダルビッシュ有が自身のツイッターにつづった“つぶやき”に、衝撃の大きさが表れていた。
2013年1月23日、日本ハムとオリックスの間で2対3の大型トレードが成立し、その中に糸井嘉男の名前が含まれていたことで、球界は騒然となった。
なにしろ糸井といえば、前年まで4年連続打率3割&ゴールデン・グラブ賞で2度のパ・リーグ制覇に大きく貢献し、その春に予定されていたワールド・ベースボール・クラシックの代表メンバーにも選ばれていた。いわば球界の顔である。その糸井がキャンプインを目前にして放出されるとは、想像だにできないことだった。
糸井放出の引き金となったのは、難航する契約更改交渉の席で、糸井が球団側に「近い将来のポスティングによるメジャー移籍」を要望したことだったと言われている。
日本ハムはそれまでにも
小笠原道大(07年にFAで
巨人へ移籍)やダルビッシュ(12年にポスティングでレンジャーズへ移籍)、
田中賢介(13年にFAでジャイアンツへ移籍)といった看板選手に対して積極的な留意を行わず、退団を許していた。糸井の場合も本人がメジャー移籍を希望するなら、先手を打って他球団にトレードし、その分の戦力補強に舵を切ったとしても不思議ではなかった。
今年、移籍先の球団には誰も……
しかも、当時の日本ハムは、前年のMVP・
吉川光夫が左ヒジ痛のために開幕に間に合うか微妙な状況であり、メジャーに移籍した田中と故障のために出遅れ必至と見られていた
金子誠の穴埋めも急務であった。
そこで白羽の矢を立てたのが先発で2ケタ勝利3度の木佐貫洋、堅実な守備に定評のある大引啓次、そしてレギュラーとしても経験豊富な外野手の赤田将吾だったというわけだ。
一方、前年は投打ともに低迷して3年ぶりの最下位に終わったオリックスも、このトレードで糸井のみならず、サウスポーの八木智哉も獲得。衝撃は大きかったが、両チームにとって実のあるトレードに見えた。
糸井は新天地でもほぼ不動の三番・右翼として打率3割をマークし、いずれも自己最多の17本塁打、33盗塁を記録。だが、八木はわずか3試合の登板でプロ8年目で初のゼロ勝に終わった。
これに対して日本ハムは、木佐貫が2ケタ勝利こそ逃したものの、チームトップに並ぶ9勝と健闘し、3年ぶりのオールスターに出場。大引は正遊撃手に定着し、赤田もバイプレーヤーとして存在感を示した。
その後、八木は14年限りで戦力外通告となり、トライアウトを経て
中日へ。しかし、今年ふたたび戦力外通告を受け、ユニフォームを脱いで中日球団スタッフになった。赤田も14年限りで現役を引退して、
西武の二軍コーチとなり、大引も14年オフにFA宣言して
ヤクルトへ。木佐貫は15年限りで引退して、巨人のスカウトになった。そして、糸井は16年オフにFA宣言で
阪神に移籍した。
つまり、すでに今年、当時のトレードで移籍した球団にもう誰も残っていなかった。
写真=BBM