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トレード物語

【トレード物語24】意志を貫いて楽天へ移籍した岩隈久志【2004年】

 

近年は少なくなってきたが、プロ野球の長い歴史の中でアッと驚くようなトレードが何度も行われてきた。選手の野球人生を劇的に変えたトレード。週刊ベースボールONLINEで過去の衝撃のトレードを振り返っていく。

労使合意が発端


楽天入団発表時の岩隈(左。右はキーナートGM)


[2004年オフ]
オリックス岩隈久志⇔楽天(金銭)

 岩隈久志の出した最終結論は楽天へのトレードだった。2004年12月17日、神戸市内のホテルでオリックスの小泉隆司球団社長と4度目の会談を終えた岩隈は「2日間、時間をいただき、寝る間を惜しむくらい真剣に考えました。やっぱりオリックスでプレーできません」とあらためて楽天希望を表明した。

 悩んだ末の決断だった。「小泉社長と話すうちに、オリックスへの悪いイメージはなくなりました。年齢の近い選手も多いし、一緒にやることも考えました」とオリックスに百パーセントの拒否反応を示したわけではなかったが、最後は自分の意志を貫いた。

「6カ月間、合併問題の中で野球をやってきて、とてもつらかった。オリックスでプレーすると、その気持ちを引きずったままになると思いました。新しい気持ちでやりたい」

 そもそもは2度目のスト突入を回避した9月23日の労使合意が発端だ。小泉社長は「プロテクトの際、選手の意思を尊重する」と当時、近鉄の選手会長だった礒部公一に約束。近鉄との合併を認めさせるための譲歩案が、結局自分の首を絞めることになった。

 10月22日に初めて小泉社長と会談した岩隈はプロテクトする旨を伝えられたが、「魅力あるチームをつくりたいと言われたが、具体的な説明がなかった。仙台のほうが面白みがある」と拒否反応を示した。まだライブドアと楽天が新規参入を巡って壮絶なバトルを繰り広げているこのころから、移籍を希望していた。

 それでもオリックスは11月4日、新規参入が認められた楽天に提出したプロテクト選手名簿に「岩隈久志」の名を記載。合併反対運動の先頭に立った礒部だけでなく、福盛和男藤井彰人も希望を聞き入れられて提出直前でプロテクトから外れたが、エースだけは外れなかった。8日の分配ドラフト後に全選手が発表されると、日米野球で福岡に遠征中だった岩隈は「オリックスでやる気持ちになれない」と複雑な表情を浮かべた。

事態は泥沼化の一途


 オリックスの“二の矢”は中村勝広GMだった。18日大阪市内のホテルで初会談。誠心誠意口説いたが、岩隈は「気持ちは変わることない」とあらためて入団を拒否。中村GMは疲れ切った表情で「彼の言わんとすることは金や条件を超えている」とこぼすしかなかった。さらに岩隈は20日に行われた近鉄OB会で「今度トレードに出してほしいと伝える」と初めて明確にトレードを要求。両者の溝は深まる一方だった。

 23日には“三の矢”仰木彬監督が極秘会談。持ち前の巧みな話術で説得を試みたが、岩隈の意志は揺るがない。同じ日には日本プロ野球選手会の古田敦也会長が「岩隈を応援しますよ」と全面支援を約束。選手会の山崎卓也顧問弁護士は「合併ではなく営業権譲渡の場合、労働者の同意なく契約先を変更することはできない」と労働法や民法を持ち出して岩隈の要求の正当性を主張した。事態は泥沼化の一途だった。

 形勢不利を察知したオリックスは、このころから他球団との交換トレードを模索し始める。同一リーグの楽天に、しかも金銭でのエースの放出は避けたいからだ。実際、29日に2度目の会談を行った小泉社長は「楽天以外のチームでもいいのか」と尋ねている。当初は「最悪、ほかのチームでも」と話していた岩隈も、トレード交換要員と一部で報道された巨人高橋尚成が不快感を示したため、態度を硬化。希望を楽天への金銭トレード1本に絞った。12月3日には仰木監督が2度目の会談で、将来のメジャー移籍を容認して説得したが、岩隈は耳を貸さなかった。

 それまで沈黙を守っていた小泉社長が反撃に転じたのは翌4日だった。岩隈のトレードは「野球協約にのっとったもの」と主張。選手会の言い分に真っ向から反論した。7日には中村GMが日本野球機構を訪問し、長谷川一雄事務局長の「協約に基づいて解決してほしい」との言質を得た。

 14日には小池唯夫パ・リーグ会長までもが「1年間、オリックスでプレーして来オフにもう一度、協議する」との微妙な折衷案を提案。15日に小泉社長と3度目の会談を行った岩隈は「2日間考えさせてほしい」と話し、軟化したかと思われた。

 しかし、実際は意志が揺らぐことさえなかった。17日に神戸市内のホテルで会談し、「断りを入れました」。年内決着を目指し、選手会にも支援を要請した。それでもオリックスは法廷闘争を辞さない姿勢を見せたが結局、22日、小泉社長が「宮内(義彦)オーナーの判断で、岩隈投手を楽天に金銭トレードすることにした」と発表。「野球協約や球界の秩序は守らなくてはならないが、問題が長期化した場合の球界や岩隈投手への影響を考慮して、宮内オーナーの判断で超法規な決断をした」とトレードの理由を説明した。

 同日夜、仙台市内で記者会見した岩隈は「オリックスには自分の意志を尊重してもらい感謝している。ファンにも迷惑をかけたが、これから楽天を強いチームにしてプロ野球を盛り上げたい」と語った。

写真=BBM
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