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トレード物語

【トレード物語28】揺れ動く思いを振り切って新天地を求めた鹿取義隆【1989年】

 

近年は少なくなってきたが、プロ野球の長い歴史の中でアッと驚くようなトレードが何度も行われてきた。選手の野球人生を劇的に変えたトレード。週刊ベースボールONLINEで過去の衝撃のトレードを振り返っていく。

移籍1年目にタイトル獲得


西武で抑えとして欠かせない存在となった鹿取


[1989年オフ]
巨人鹿取義隆⇔西武・西岡良洋

 新天地への期待で、鹿取義隆の顔は緊張しきっていた。1989年12月7日、西武・西岡良洋とのトレードが決まり、西武球団事務所での入団発表。

「西武の投手陣は、正直言って、巨人よりすごいかもしれない。みんなが新天地、新天地と騒ぐけど、本当は不安もありますよ」

 西武の鹿取として始動した1月のある日、落ち着きを取り戻したベテラン投手は、素直な心境を打ち明けた。

 88年の45試合から89年は21試合と登板数は半減。出番が少なくなっていた鹿取は気力だけが空回りしていた。

「もう、巨人じゃ僕が投げる必要もないでしょう」

 シーズン中からくすぶっていた思いが、近鉄との日本シリーズでベンチから外されたことでセキを切った。秋季キャンプでも、事あるごとに“トレード直訴”を繰り返していたが、12月上旬、藤田元司監督が鹿取の最終意思を確認し、西武とのトレードに踏み切った。

 このころの気持ちを、鹿取はトレード決定後、当時の週刊ベースボールで次のように語っている。

「11月7日から17日(帰国は日本時間の21日)まで、米国カリフォルニア州、パームスプリングで行われた秋季キャンプ。僕は、この砂漠の中の町にポツリと一人で立っているような気分だった。もちろん、シーズン中の疲れをいやす一人旅でないことは十分、分かっている。でも、頭の中は複雑な気持ちで揺れ動いていたんですよね。

 二者択一――。巨人にこのまま残るか、わがままを言って他チームに放出してもらうか。正直言って、毎日毎日、その日、そのときによって、気持ちがコロコロと変わっていく。

 昨年はあれほど意気込んで臨んだ秋季キャンプ(巨人は前年、主力抜きでパームスプリングス・キャンプを行った)。でも、今年はまったく違う。野球よりも、自分自身の選択肢の決定にエネルギーを注いでいた、というのが正直な気持ちですね」

 揺れ動く思いを振り切って西武に移籍した90年、鹿取は24セーブで最優秀救援投手のタイトルを獲得するなど復活。

「勝ち試合にしか使わないと森監督も明確に言ってくれて、仕事がやりやすかったですよ」

 その後もリーグ5連覇を達成するチームでフル回転を見せた。

写真=BBM
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