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石田雄太の閃球眼

【石田雄太の閃球眼】タブーなく、リプレー映像を――

 

MLBでは当たり前になったリプレー検証が来季より日本でも導入される。その間の観戦しているファンへの対応に注目したい


 球場にいなければ味わえない光景がある。たとえば、大谷翔平がマウンドへ向かうとき、必ず左足でファウルラインをまたぐのは、スタジアムにいなければ気づけない。毎回、大谷の足元をテレビカメラが追ってくれるはずがないからだ。左足でラインをまたげそうもない場合、大谷は軽くスキップしてタイミングを合わせている。そうまでしてそのラインを左足でまたぐのは、彼がゲンを担いでいるからだ。そうした選手のさり気ない仕草に気づいて、あれこれと想像をふくらませるのは、野球好きにとっては至福のときだ。

 球場で野球を観る醍醐味は他にいくらでもある。だから野球好きは球場へ足を運ぶ。しかしながらいくつかは、球場よりもテレビで観ていたほうがよく分かることもある。スピードは球場でも表示されるが、球種はテレビでなければ表示されないし、コースも球場では分かりにくい。バッターがヒットを打てば、ホームチームの場合は球場の大画面でリプレーが流されるが、ビジターチームの選手が打ったヒットは流れない。ピッチャーが奪った三振は、ホームチームのピッチャーであってもなかなかリプレーされることはない。

 そこで思い至ったのが、リプレー検証である。これまで審判が検証している間、テレビを見ている視聴者はそのシーンを何度も観ることができるのに、球場の観客はその映像を観ることができなかった。審判を気づかって、球場の大画面にリプレーの映像を流さないようにしてきたからだ。

 記憶に新しい今年の日本シリーズ第2戦でも、同点で迎えた7回、ホームへ突っ込んだランナーの今宮健太の手が先だったか、タッチに行ったキャッチャーの戸柱恭孝のミットが今宮のホームインを阻んだのか、微妙なタイミングのプレーがリプレー検証となった。球審が下した判定はアウトだったのだが、6分半の検証の末、判定はセーフに覆った。

 ただ待たされただけの球場の観客に対して、審判からの説明は「お待たせ致しました。リプレー検証の結果、セーフとします」の一言だけ。セーフになったのは今宮の手が早かったからという以外、理由は必要ないのかもしれないが、それでも長い時間、待たせたのだから、せめてリプレー検証が終わった段階で、判定を覆すに至った映像を大画面で見せるくらいのサービスは必要だったのではないかと感じた。球場に足を運んだベイスターズのファンには、釈然としない思いが残っていたと思う。

 来シーズンからは、判定に異議がある場合、監督が映像での検証を求めることができる『リクエスト制度』を導入することが、プロ野球12球団実行委員会で決められた。メジャーが導入しているチャレンジ制度をトレースしたもので、システムの規模からすればとても再現したとまでは言えないものの、これからは地方球場を含むすべての公式戦で、中継局などの協力を得て、外野フェンス際のフライボールや、すべての塁におけるアウト、セーフの判定に対して1試合に2度まで、異議を申し立てることができるようになる。

 その規定には、リプレー検証中の球場ビジョンに、審判団が確認している映像と同じ映像を放映することができる、という項目が含まれていた。メジャーでは、チャレンジ制度が始まるずっと前から、監督が審判に抗議をしている間、これでもかというほど、球場の大画面にリプレー映像が流されていた。一方、日本は審判への観客からの文句を恐れて、球場では監督の抗議中に微妙な判定のリプレー映像を流さないようにしてきた。新たな規定も「放映しなければならない」ではなく「放映することができる」という言い回しになっているのが気になるものの、これまでないがしろにしてきた球場の観客に対する最低限のサービスとして、リプレー検証中、その映像を球場の観客にも見てもらおうという発想は、大きな前進だと思う。

 球場でなければ味わえない野球がある。テレビだからこそ味わえる野球もある。それぞれの味わいがあっていいとは思うが、テレビが球場の臨場感を伝えるために凝らしてきた工夫に比べて、テレビで味わえる醍醐味を球場でも味わわせようとする意識は足りてなかったように思う。ファン優先の考え方が浸透してきた最近の球場で、リプレー映像をふんだんに流すことは、さして難しいことではないはずだ。タブーなく、リプレー映像を――これを、すべての球場にお願いしたいと思う。

文=石田雄太 写真=GettyImages
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