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石田雄太の閃球眼

【石田雄太の閃球眼】野球好きには堪えられない醍醐味

 

新生・稲葉ジャパンが挑んだアジアプロ野球チャンピオンシップ2017では、全3戦に四番で出場した西武山川穂高。原点は高校時代の悔しい見逃し三振だった


 今年のフレッシュオールスターゲームで興味深い対戦があった。5回裏、ウエスタンのマウンドに福岡ソフトバンクホークスの2年目、小澤怜史が上がり、イースタンのバッターボックスには東北楽天ゴールデンイーグルスの2年目、堀内謙伍が入った。すると観客から大きな歓声が上がり、スタンドは拍手喝采に包まれた。場所は静岡草薙球場で、小澤は日大三島高出身、堀内は静岡高を3年前の夏から3季連続で甲子園出場に導いていた。地元の若きヒーロー同士の対決に草薙は盛り上がり、かつて県大会で堀内に苦杯を喫した小澤にしてみれば、プロの舞台で対峙したライバルを打ち取りたいという思いはひときわだったろう。小澤は堀内を高めのストレートでファーストフライに打ち取って、雪辱を果たした。プロの選手が高校時代に対決していた過去を紐解くのは、野球好きには堪えられない醍醐味だ。

 話にしか聞いたことはないが、伝説の域に達した2人の左腕投手が高校時代に練習試合で投げ合っていたというエピソードにはとりわけそそられる。1967年から6年連続でセの最多奪三振のタイトルを獲得したのは阪神タイガース江夏豊、まったく同じ期間、6年連続でパの最多奪三振に輝いた近鉄バファローズの鈴木啓示。この2人が高校時代、練習試合で投げ合っていたというのだからワクワクする。しかもこの試合は延長15回まで互いに譲らず、0対0のスコアレスドロー。大阪学院高の江夏が15個の三振を奪い、江夏より1学年上の育英高の鈴木は27個の三振を奪っていたのだと聞けば、イメージは膨らむばかりである。

 ナマで観た高校時代の対決で今も記憶に刻まれているのは、鹿児島実高の杉内俊哉と川内高の木佐貫洋の投げ合いだ。今から20年前、1998年の夏、全国で地方大会を見て歩いている折、鹿児島で出くわした投手戦に息を呑んだ。片や真っ向からストレートを投げ下ろす大型右腕・木佐貫(読売ジャイアンツ北海道日本ハムファイターズ)。此方、キレのいいボールを内角にビシビシ決める、小柄な左腕・杉内(福岡ソフトバンクホークス〜読売ジャイアンツ)。そんな2人の対決は、甲子園出場を賭けた鹿児島大会の決勝で実現した。中学時代の仲間と一緒に甲子園に行きたいと地元の県立高校を選んだ木佐貫の思いは、名門校のエースナンバーを背負う杉内の意地の前に吹っ飛ばされた。そんな意地を象徴していたのが、杉内が投げていた、懐をえげつなく切り裂くインコースへのストレートだった。
 
懐をえげつなく切り裂く、インコースへのストレートといえば、もうひとつ、忘れられない高校時代の対決がある。
 
 2009年の夏、沖縄大会の決勝。甲子園出場を賭けて激突した中部商高の四番は3年生の山川穂高(埼玉西武ライオンズ)、一方の興南高のエースは、その翌年、甲子園で春夏連覇を成し遂げる2年生のときの島袋洋奨(福岡ソフトバンクホークス)だった。

 3回、2番手としてマウンドへ上がった島袋は、二死満塁のピンチで四番の山川を迎えた。島袋は山川に対し、ストレートを投げ続けた。そして、ファウルで懸命に粘る山川は、打ち損なってバッターボックスで吠えていた。当時のことを島袋はこう言った。

「緩い球を投げて打たれら悔いが残るので、バッターが待ってると分かっていても、ストレートを投げようと決めていました。思い切り、ストレートを投げれば、バットに当てられても内野は超えないという自信がありますから」

 フルカウントからストライクゾーンにキレのいいストレートを投げ続ける島袋は、8球目も渾身の力でストレートを投げ込んだ。山川のバットはピクリとも動かなかった。山川はこう言っていた。

「あのときの自分は、必死でやってもあれがマックスだったと思います。でも、今だったら絶対に打てる。自分はあそこから始まったと思ってますから……」

 山川はプロ4年目の今年、23本のホームランを放って、ライオンズのCS出場に貢献した。11月に行われたアジアチャンピオンシップでは侍ジャパンの四番を任されるなど、長距離砲としての才能を開花させたと言っていい。

 島袋は一軍で結果を残せず、このオフ、いったん戦力外通告を受けた。そしてホークスと育成選手として再契約を交わし、来年をラストチャンスと位置づけている。

 高校時代の島袋と山川が見せてくれた、あの痺れるような対決をプロの舞台でもう一度見たい。その手の想像を逞しくするのも、野球好きの楽しいオフの過ごし方ではないか、と思う次第――。

文=石田雄太 写真=BBM
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