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追悼・星野仙一

追悼企画14/星野仙一、野球に恋した男「独占!星野仙一と男の60分 前編」

 

 星野仙一さんは、いつも言っていた。「俺はベースボールの取材は断らん」。実際、ほとんど断られたことはない。恥ずかしい話だが、テレビ局などに比べれば、ウチのギャラなど雀の涙……。おそらく、球界にとっての専門誌の重要さを評価してくれていたのだと思う。そういった俯瞰(ふかん)した見方ができる方だった。
 星野さんの追悼号制作の中で、たくさんの資料を見て、たくさんの方から話を聞いた。それがあまりに膨大なので、これから毎日になるか、数日に1回になるか分からないが、追悼号には入りきらなかった話を当時の『週べ』の記事の再録も交えながら紹介していきたい。(以下は敬称略)

打算があったらなんの勉強にもならん


解説者時代の星野。プロゴルファー、ジャック・ニコラウスと


 前回、1987年、中日監督就任時のインタビューを抜粋し、紹介したが、その2カ月ほど後、『独占!星野仙一と男の60分』という記事は、その内面を知るうえで、なかなか興味深く、われわれ編集者にとっても勉強になる話だ。長いので、前後編に分ける。

星野 俺は人間が好きだからね。嫌な感じだと思ったら口もきかん。でも、基本的には人間が好きだから、いろんな人の話を聞く。いろんな人の話を聞くと、なんかこう豊かになる。本を読むと心が豊かになるようにね。

──人の話を聞く、といっても漠然と聞いていたのでは……。何か意識を持って聞かないと栄養分にはならないでしょう。

星野 打算的な考え方だったら、計算狂いますよ。人間同士、男同士というものであればいいと思う。それでヨロイをつけずに裸で語れるか、語れないかという問題じゃないかと思う。人間を磨くには打算的な考えがあっちゃ、いかん。

──人間を、男を磨いた浪人時代。

星野 磨いたという意識はないよ。ただ評論家時代、人と話さなきゃいけないとなると、それだけ勉強をしとかんと、話についていけない。たとえば、ある人と対談してほしいという話が入って、OKしました、ということになるよね。しかし、対談するには、その人がなにを志しているのか、何を今までやってきた人か、経歴からなにから全部調べておかなければならない。そのためには、いろんな人に聞くし、本が出ていれば読む。

──超人気者のあなたが、そこまでよくやりましたね。

星野 いやいや、どんなに少ないギャラであろうが、やるときは全力でやってあげなきゃいけない。それは相手への礼儀です。

──なかなかできないでしょ。

星野 いつも思っていた。いま人気があるんだなんだとか、みんなからチヤホヤされるし、それなりの収入はあるけど、これはいつかなくなるんだ。こんなもの長続きするわけがない。いまはいいけど、来年は分からねえぞ、来年持ったとしても再来年はわかるかい、というプレッシャーを常に自分にかけていた。ま、そういう中からいい話を聞き、いい物を見たとは思うね。

落合とはオイ! ハイで分かり合えた


──男、仙一と言われますが、もともと気が強いのですか。

星野 強くないよ。弱いの。逆に弱いんだって。強いようで弱いのが人間だし、男なんだし。特にピッチャーなんて非常にナーバスだし、メンタルな面で左右されやすいし。その中でいかに虚勢を張っていくか。自分との戦いが多かった。

──その葛藤の中から、なにかつかむ。

星野 どんな世界でも同じだと思う。たとえば、あなた方マスコミでいえば、星野とインタビューをする。よし、こりゃ何かを引き出すぞとプレッシャーを自分にかける。普通の新聞に載らない部分を何か引き出すんだ、という考え方であたっていくしかないと思うんだ。ひとつひとつの仕事を追求していくということから進歩があるんじゃないだろうか。俺は腹が立ってしょうがない。

──どういうこと?

星野 最近のスポーツ紙にしても、スポーツマンというものを書いてない。芸能界のことをつまんで書いているような感じを受けるんだ。たとえ話ができないんだよね。たとえ話をすると、ものすごく分かりやすいわけ。でも、「たとえば……」の「たとえば」が消えちゃって、「……」の部分だけドカンとやる。たとえ話ができなくなった世の中は、もうおしまいよ。こりゃ非常に寂しい。だんだん、野球がおもしろくなくなっているという話をよく聞くけど、もちろんわれわれにも責任はあるが、マスコミにも責任はある。その面で、落合(博満)なんかは勇気がある。しゃべりたくないと思えば徹底してノー。ダーティーと言われてもね。落合をヨイショするつもりはまったくないけどね。

──落合はマイペースだと書かれていますが、監督の目から見て。

星野 あいつは、チームのことをものすごく考えている。それは新聞記者にもわかっていると思う。でも、机に座ってるヤツはわかんねえよ。ふだん一緒にいないから。先に見出しを決めちゃってるもんだから。これに合わせるようなことを持ってこいという。そういうことで落合は非常に誤解されている。

──黙ったのは、もうひとりのスター、星野仙一への配慮では。

星野 俺に気を使ってる部分があるよね。自分のことで監督が悪く言われちゃいけないとかね。そういうことまで考えるヤツよ。

<次回へ続く>

写真=BBM
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