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追悼・星野仙一

追悼企画17/星野仙一、野球に恋した男「中日第1期監督時代で印象に残る選手」

 

 星野仙一さんは、いつも言っていた。「俺はベースボールの取材は断らん」。実際、ほとんど断られたことはない。恥ずかしい話だが、テレビ局などに比べれば、ウチのギャラなど雀の涙……。おそらく、球界にとっての専門誌の重要さを評価してくれていたのだと思う。そういった俯瞰(ふかん)した見方ができる方だった。
 星野さんの追悼号制作の中で、たくさんの資料を見て、たくさんの方から話を聞いた。それがあまりに膨大なので、これから毎日になるか、数日に1回になるか分からないが、追悼号には入りきらなかった話を当時の『週べ』の記事の再録も交えながら紹介していきたい。(以下は敬称略)

中村武志と山本昌


91年、第1期最終年の星野監督


 今回はまず、1987年からの第1期監督時代で印象に残る選手たちについて語った個所を紹介する(中日70年史)。

「いろんな選手がいましたね。中村(武志)は僕が最初に監督として戻ったとき、整理寸前だったんです。ファームでもうまく球を捕れん、打てんと。それを聞いて『ちょっと待ってくれ』と。ドラフト1位の選手じゃないか。それに捕手はブルペンでも必要だし、何人いてもいい。で、加藤(安雄)コーチに『壊してもいい。とにかく徹底的に練習させてみろ』と。僕はいろいろな選手と接してきましたが、練習させたという意味では彼が一番でしたね。それがどうですか。故障もせずについてきた。

 山本昌も印象は強い。初めて見たのは最初の監督になることが決まった浜松の秋季練習でした。あいつの4年目。ブルペンで『もうお前、肩もあったまっただろうから、全力で投げてみぃ』と言ったら『これで全力です』と(笑)。こりゃもうアカンと思いましたよ。それに、あんなに手足の長い投手は、オレは教えることはできん。アメリカ人にでも教えてもらうしかないと、翌年ベロビーチにやった。すると、向こうのリーグで防御率1位になったとか、オールスターにも出たとか。アイク(生原昭宏)さんが毎日のようにファクスで報告してくる。“どんなリーグだ。高校生程度のリーグで野球をやっているんだろう”くらいにしか思わなかった。そんないい投手になるなんて思ってもいなかったものですからね。

 向こうのファームのリーグは8月には終わり。そしたらホワイトソックスが山本昌を欲しがっているという。『本人にとっては大チャンスだ。どうぞ行かせてやってくれ』と答えたら、中山球団社長が『貴重な左腕じゃないか。すぐ日本に戻そう』と強硬に言う。それは会社が決めることだからどうぞどうぞ(笑)。こっちはまだ“あんな投手が”と思っていたわけです。ところが帰ってきてピッチングを見たら、これがすごい。こんなに変わるものかとビックリした。とにかく低めにビシビシ決まる。球にキレがある。フォークもいい。帰国して、たちまち5勝もして、翌年から中心投手になってしまった。アイクさんには本当に感謝しました」

野村監督の舌戦に……


 指揮官時代の話はやや足早にさせていただく。

 優勝翌年の89年こそ3位だったが、90年は負け越しの4位。体調不良や、その乱闘も辞さずというケンカ野球が一部マスコミで批判され、冷戦状態になったこともある。

 迎えた91年、「丸くなった」とも言われた星野仙一監督の前に現れたのが、2年目の野村克也監督率いるヤクルトだった。夏場は首位争いを演じたが、戦いはグラウンドだけではない。

「星野のような“俺についてこい”はいまどき流行らんよ」

 野村監督は盛んに舌戦を仕掛けてきた。

 普通であれば、即座に応戦するはずの星野監督だが、不思議なくらい挑発に乗らず、「最後は浩二のところやろな。そんな気がするわ」とライバルで親友・山本浩二監督が率いる広島を見ていた。

 そして夏場から首位を守り続けた中日だが、その言葉どおり9月10日、広島に抜かれ、首位陥落。しかも一気に連敗が始まった。

 5連敗を喫した後、9月23日、ヤクルト戦の前だった。星野監督は食堂に選手を集め、

「この5年間、俺についてきてくれてありがとう。首位を走りながら転落していった責任は俺にある。責任は取るつもりだ。君たちを優勝させてやれなくてすまなかった。残り試合、総決算と思って頑張ってくれ」

 と突然の辞任宣言。苦しめられていた首痛に加え、一部マスコミの批判、さらに自らが役員に名を連ねていた企業の不正融資疑惑もあったようだが、詳しいことは分からない。

 星野辞任の知らせを「知っていたんですか」と報道陣に聞かれた山本監督は、寂しそうに「俺に言わせるな」とつぶやいたという。

<次回へ続く>

写真=BBM
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