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【大学野球】東大を支えるマネジャー兼打撃投手

 

東大・中川マネジャーは“本業”と並行して、打撃投手として1日240球を投げ込む


 1日240球――。ノーワンドアップからリズム良く、ストレートを投げ込んでいく。一人、ジャージー姿で投手ヘッドギアを装着しているが、120キロに迫る球筋は選手顔負けである。その9割5分以上がストライク。東大・中川駿マネジャー(4年・東京学芸大付高)は一定のテンポと抜群の制球力を武器に、打撃投手を週4回、買って出ている。

 東大・中西正樹助監督から「お前が一番、(ストライクが)入る」と評判が高く、野手からも信頼されているという。通常の打撃投手は1組だが「選手は自分の練習もあると思うので、自分はマネジャー業務の合間を見て投げています」と、人よりも倍の2組を担当。約15メートルと通常のマウンド(18.44メートル)よりも前から投げるものの、240球も投げれば疲労も残るはず。ところが「母がバレーボール選手で、肩の強さには自信があるんです」と“連投”も辞さない強じんなスタミナの持ち主だ。

 中川は1年間の浪人を経て東大に合格し、野球部には選手として入部した。高校時代は外野手(五番・右翼手)。打撃投手の経験はなかったが、持ち前のコントロールで毎日、ボールを投げ続けた。東京六大学リーグ戦における第1試合前には神宮で打撃練習が行われるが、「投手優先」というチーム方針もあって、あこがれの場所で投げることはできなかった。

 1年秋のリーグ戦が終わると、同学年でマネジャーの人選に入ったが、難航した。打診しては退部するという繰り返しで、中川は4人目。選手として続けたい思いはあったが、チームのことを最優先考え、裏方に転身した。しかし、以降も「体が弱くなりたくない」とトレーニング(ウエート、体幹)を継続。その根底には「野球の実力が認められなかった悔しさが、ずっとある」と、来るべき日に備えてきたのである。

 部員を束ねるチーフマネジャーの業務と並び、打撃投手としても、なくてはならない戦力となった。浜田監督と相談した上で、今春のリーグ戦では試合前の打撃投手を任されることとなった。また、フレッシュリーグ(2年生以下によるリーグ戦)の試合前の外野ノックも担当。ノックバットで約120メートルの飛ばし屋であり、フェンスオーバーが見られるかもしれない。あこがれの神宮に立てる。「負けず嫌いの性格なので、マネジャーでも、できるところを見せたい」と春を心待ちにする。

 もちろん、マネジャーとしてチームの屋台骨を支え、問題なく、円滑に仕事をこなしてこその「二刀流」である。部運営、取材対応にいたるまで気配り、心配りができるマネジャーとしての力量も相当なレベルにある。法学部に在籍する秀才。大学の試験前は1カ月半前から対策に入り、テスト期間の約1週間は24時間体制で机に向かうが、それでも「8割しか(準備)できない」と明かす完璧主義者だ。

 卒業後は一般企業に就職するか、国家公務員試験を目指すか検討中。だが、国を動かすことのほうに興味があるという。

「法学部なんですが、温暖化、日本の食料自給率など環境問題への危機感が強いんです」

 将来のビジョンも明確な超エリートを支えているのは、努力を惜しまない姿勢。

「明日も240球、投げますよ!」

 マネジャー兼打撃投手は充実の学生ラストイヤーを過ごしている。

文=岡本朋祐 写真=桜井ひとし
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