長いプロ野球の歴史の中で、数えきれない伝説が紡がれた。その一つひとつが、野球という国民的スポーツの面白さを倍増させたのは間違いない。野球ファンを“仰天”させた伝説。その数々を紹介していこう。 トニー・フェルナンデス[2000西武/内野手]
西武・フェルナンデス
周囲の目には“奇行”と見えても、
トニー・フェルナンデスには、それがメジャー時代から続く当たり前の姿だった。
2000年、西武に入団。メジャー16年で2082試合、2240安打(打率.288)、92本塁打をたたき出した超A級助っ人は来日直後の2月の高知キャンプでは腰に巻いたゴムチューブの端を通訳に持たせてランニング。さらにはトンネルの練習まで繰り広げて
東尾修監督、ナインを驚かせたが、その独特の調整法はシーズンに入っても変わらない。
5月、安打製造機のバットからピタリと快音が消え、33打席無安打のスランプに陥ったが、こんな“不振脱出法”があったのかと周囲を驚かせた。復活への武器にしたのが1本のハンマーだった。
5月27日の
ロッテ戦。試合前に秋田・八橋球場で作業用のハンマーで素振りを繰り返すと、これが大当たり。2ランを含む2安打、4打点。関係者に頼み込み、譲り受けた“フェルハンマー”は、F砲の打棒を支えた。
試合前の練習中には、必ずベンチ裏の暗い部屋で瞑想。ほかの選手たちがベンチ裏を通るときは、フェルナンデスに気を使って、そっと静かに通り抜けて行った。
8月の福岡ドーム(現ヤフオクドーム)でウエート室常備のマウンテンバイクを拝借して乗り回し、「ドーム内の通路は運転禁止なんですけどね(笑)」と球場職員をあ然とさせたこともあった。
敬虔なプロテスタントで、来日も「神様の導きがあったからだ」。愛読書は聖書。もちろん禁酒、禁煙。
「アメリカも日本も気持ちは同じ。いつも神様が見守っていてくれる。神を信じることだ。全力で取り組まないと神を裏切ることになるじゃないか」
結局、00年は103試合に出場し、121安打、11本塁打、74打点、打率.327。メジャーの実力も本物だった。
写真=BBM