長いプロ野球の歴史の中で、数えきれない伝説が紡がれた。その一つひとつが、野球という国民的スポーツの面白さを倍増させたのは間違いない。野球ファンを“仰天”させた伝説。その数々を紹介していこう。

ドン・シュルジー［1990−1992オリックス／投手］

　1991年5月29日、日生球場、近鉄対オリックス戦の延長11回表。「六番・ピッチャー、シュルジー」のアナウンスに「オリックスもしゃあねえなあ」と失笑していたスタンドも、そのシュルジーが近鉄の若き守護神・赤堀元之から左中間の照明灯にぶち当てる勝ち越しの一発を放った瞬間、ハチの巣をつついたとうな大騒ぎとなった。

　そもそもパ・リーグの投手陣、1975年にDH制が導入されて以来、打席に立つことすらほとんどなくなってしまっていた。“投げるだけの人”だったパの投手が、DH制実施以来、初のホームランまで打って、自らを勝利投手にしてしまったのだから、これだけならまさに“珍プレー中の好プレー”といったところだった。

　この試合、土井正三監督は5対3とリードしていた9回裏、長谷川滋利に代えシュルジーを送った。だが、シュルジーが打たれ同点。長谷川のプロ初勝利も消え、延長に入っていた。「時間切れ」を見越し、シュルジーをそのまま打たせたところ快打となった。

　3年間、オリックスに在籍したシュルジーは投手としては通算12勝11敗10セーブ。打席はこの1打席のみ。生涯打撃成績「1打席1本塁打」は、ほかに東急・塩瀬盛道がいるだけの珍記録だ。

写真＝BBM