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センバツ現場発

センバツ現場発/敗戦の責任を一身に背負い涙。だが、瀬戸内高の四番・門叶には人々を魅了するスラッガー像を追い求めてほしい

 

第90回記念選抜高校野球大会が3月23日、阪神甲子園球場で開幕した。球児による13日間(準々決勝翌日の休養日1日を含む)の熱戦が繰り広げられるが、現場でしか分からない「センバツリポート」をお届けしていく。

四番が背負った十字架


1点を追う9回裏二死三塁、瀬戸内高の四番・門叶は二飛に倒れ、ゲームセット。明秀日立高に3対4と、無念の初戦敗退となってしまった


 大変な十字架を背負ってしまったのかもしれない。

「1試合4本塁打」

 瀬戸内高の四番・門叶直己(3年)は昨秋の中国大会1回戦(対米子松蔭高)で圧巻の“離れ業”を遂げた。

 以降、取り巻く世界が変わった。高校通算は20本塁打を超えている。相手バッテリーは当然、本塁打を警戒する。しかし、門叶は「平常心のプレー。自分のスイングで、チームバッティングをしていく。つなぐ打撃。初心に戻る。そこを貫き通していく」と、報道陣からの「本塁打への期待」という“誘い”にも乗ってくることはなかった。

 冬場に体重が5キロアップの96キロとなった。しかし、外野守備の部分で体のキレを戻すため、2週間で5キロの減量に着手。「スイーツ系全般が好き。特に抹茶系(笑)。でも、この期間は甘い物を控えました」。ストイックなまでに体を絞り込み、自身初の甲子園に乗り込んできた。

 明秀日立高(茨城)との1回戦は右腕・細川拓哉(3年)との対決。DeNAで活躍する成也の弟である。第1打席は敬遠気味の四球を選び、第2打席は中前打。そして、最大の見せ場が9回裏の第5打席でやってきた。

 瀬戸内高は1点をリードして9回表の守りを迎えたが、逆転を許して3対4。一転してビハインドの展開となり、二死三塁で門叶に打順が回ってきたのだ。

 ベンチからは「頼むぞ!」「頼むぞ!」の声。17歳の高校生、キーワードとしていた平常心を失ってしまった……。初球、高めのボール球に手を出して二飛。万事休すである。

「大会で一番、印象に残る選手になりたい」


 試合後のインタビュールームに入ると、しゃがんだまま涙。しばらく、取材を受けられないほど落ち込み、主砲としての責任を感じていた。

「後がないところだったので、自分が決めてやる、打ってやるという欲が出てしまった。チームに申し訳ない。自分のスイングができなかった」

 初めての甲子園で、普段どおりの力を発揮する難しさを痛感した。

「絶対に夏、また帰ってくる」と言った後、自身の打撃については「力強いゴロ。相手のエラーを誘うような打球を打っていきたい」と話した。

 率直に、疑問を感じた。チームプレーに徹する姿勢。言っていることは間違っていないが、門叶にはスケールの大きな選手になってほしい、と思った。あるベテランNPBスカウトも「あの体(183センチ91キロ)、パワーは魅力」と語っていた。こちらの一方的な考えかと思い、大石卓也部長に確認すると、補足説明してくれた。

「門叶だけはバットが振れているので、自分のバッティングをしろよ! と指示しています。飛ばすことも、ボールを強くたたくことに変わらない。つまり、ヒットの延長が本塁打。気持ちはつなぐ意識。でも、打撃自体は、自分のスイングをしてほしいです」

 本人は口にしないが「1試合4本塁打」は、重圧になっていたのか?

「プレッシャーだったとは思います。でも、注目されていた相手の一番(明秀日立高。増田陸)はチャンスで1本出ている(5打数3安打1打点)。門叶も、あそこ(9回裏)で1本打てるバッターに成長してほしい」(大石部長)

 試合前の取材で唯一、門叶が自身をアピールした言葉があった。

「この大会で一番、印象に残る選手になりたい」

 このセンバツでは果たせなかったが、まだ、夏がある。小さくまとまるのでなはく、人々を魅了するスラッガー像を追い求めてほしいと強く願っている。

写真=牛島寿人
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