第90回記念選抜高校野球大会が3月23日、阪神甲子園球場で開幕した。球児による13日間(準々決勝翌日の休養日1日を含む)の熱戦が繰り広げられるが、現場でしか分からない「センバツリポート」をお届けしていく。 「連れてきてもらった甲子園」
智弁和歌山高のスラッガー・林は富山商との初戦(2回戦)で、2年秋の新チーム結成以降で公式戦初出場。安打こそ出なかったが、実戦勘を取り戻したことは3回戦につながるはず
智弁和歌山高の名将・高嶋仁監督からは、今春のセンバツで「3本打て!!」と言われている。「1大会3本塁打」はPL学園高・
清原和博、星稜高・
松井秀喜などに並ぶ大会タイ記録。高校通算33本塁打を誇る
林晃汰はそれだけの可能性を秘めた左のスラッガーだ。もちろん、NPBスカウトもドラフト上位候補に挙げる逸材である。
昨秋の公式戦出場はゼロ。本塁打を放った同夏の甲子園期間中に右ヒジの痛みが激しくなり、疲労骨折が判明し、8月下旬に手術を受けた。約3カ月のリハビリ。主砲が離脱した間、チームは近畿大会準々決勝まで勝ち上がり、センバツ出場を手中に収めた。公式戦ではボールボーイを担当し「1年から試合に出ていたので、裏方、メンバー外の気持ちが分かりました」と、人として成長する意味でもムダな時間ではなかった。リハビリ期間は下半身のウエートトレーニングと体幹強化に着手。右ヒジのケアも柔軟体操を入念に、故障再発へ努力を重ねた。
「連れてきてもらった甲子園です」
だからこそ、今センバツは並々ならぬ思いで臨んでいた。新チーム以降、自身初の公式戦となる富山商高との初戦(2回戦)を前に「この1試合は特別な感じがする。自分はまだ、このチームで何も貢献できていない。1勝1勝を積み上げ、決勝まで進出したい」と抱負を語っていた。
実戦復帰となった3月の練習試合解禁以降、早くも4本塁打の量産。しかもすべて、得意の逆方向と「いつもの感じが戻ってきた」と、調子も上向きだった。
しかし、富山商の好右腕・
沢田龍太(3年)に苦戦し、フォークで2つの空振り三振。力んだことが影響し、5打数無安打と復帰戦で活躍することはできなかった。だが、チームは7年ぶりの春初戦突破。
「勝ってホッとしている。次は打てるように、確実にボールをとらえて、焦らずにいきたい」
この日の5打席で、実戦勘を完全に取り戻したと言っていい。今回もチームメートに助けられ、また、甲子園で試合ができる。高嶋監督からの「(バットの)芯に当たれば、どこでも飛んでいくから」という言葉が支えとなっている。30日の3回戦(国学院栃木高と延岡学園高の勝者)では、本領発揮といきたいところだ。
文=岡本朋祐 写真=牛島寿人