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センバツ名勝負伝説

【センバツ名勝負伝説06】怪物江川、広商野球に敗れる

 

いよいよ始まった「第90回記念選抜高校野球大会」。週べONLINEでは歴代の名勝負をピックアップし、1日1試合ずつ紹介していく。

広商野球の真骨頂で……


怪物江川の快速球は衝撃的だった


1973年4月5日準決勝
広島商(広島)2−1作新学院(栃木)

 1973年のセンバツは作新学院のエース、怪物・江川卓の甲子園初登場として語り継がれている。とかくウワサ話は大きくなりがちで、実物はスケールダウンすることが多いが、江川は違う。そのストレートは誰も見たことがないくらい速かった。

 江川にとっても、初めて踏む甲子園球場には特別な感慨があったようだ。ただ、この男の場合、少し素直ではない(江川の言葉はすべてのちのインタビューから引用)。

「大きいな、こんなすごいところでやるんだなと思いましたね。ただ、質問されたときは、わざと思ったより大きくありませんと答えました。そう思われるとマイナスになると思ったんで」

 1回戦、北陽相手に19奪三振の完封勝利。北陽の打者のバットに初めて江川の球が当たったのが、23球目、バックネット方向へのファウルだったが、そのときスタンドが大きくどよめいたという。

 さらに2回戦は小倉南に7回10奪三振零封、準々決勝は今治西に20奪三振完封と快進撃を見せる。

 そして、準決勝、この怪物退治を半年前から考えていたという迫田監督率いる広島商との対戦を迎える。このとき江川は本調子ではなかった。試合前に雨が降ったため、報道陣から逃げるように2階の部屋で寝ていたとき、首を寝違えてしまったのだ。

「それでまったく一塁を見られないからけん制もできず、制球も乱れ8四球です。僕はそういうタイプの投手ではありませんから」

 それでも江川の球はとんでもなく速く、迫田監督は「ウチが点を取るまで延長18回再試合でも1点を与えるな」とゲキを飛ばした。

 先攻の作新学院が5回に1点リードしたが、その裏、二死二塁から佃正樹のポテンヒットですぐ同点に追いつく。地方大会から続く、江川の無失点記録は139回で止まった。

 さらに8回裏、二死一、二塁からダブルスチール。捕手の悪送球を誘って金光興二が決勝のホームを踏む。足を絡め、隙を突く。広商野球の真骨頂とも言えるだろう。

 江川は許したヒット、わずか2本ながら2失点で敗れた。

「こういう緻密な野球があるのを初めて知らされた試合でした。勉強になりました」と江川。甲子園での奪三振は4試合で60を積み重ねていた。

 甲子園の土を持ち帰ったかという質問にはこう答えた。

「試合後に取ると、多分写真に撮られると思ったんで、練習のときに隠れて、はい(笑)」

写真=BBM
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