週刊ベースボールONLINE

石田雄太の閃球眼

【石田雄太の閃球眼】夢を叶えるため――

 

福井ミラクルエレファンツナイン


 子どもの頃から、プロ野球と接点を持つ仕事がしたかった。とはいえ野球はもっぱら観る専門で、プロ野球選手になろうと思ったことは一度もない。だから野球マンガ『どぐされ球団』(竜崎遼児)に登場する現役最古参の野球記者、毎朝スポーツの宇賀神攻造に憧れた。ONから「ジンさん」と呼ばれ、記者として一目置かれていた宇賀神のような野球記者を目指していたのだが、大学生にとってその道は狭き門。卒業が近づき、就職先を考えなければならなくなって、日々、不安は増していった。

 だから、昭和の大学生は思い立って3通の手紙をしたためた。宛先はコミッショナー事務局、セントラル野球連盟、パシフィック野球連盟。就職したいという熱い思いをつらつらと書き並べ、どうすればそのチャンスが生まれるのかをたずねたのである。すると、そんな大学生にわざわざ返事をくれた人がいた。当時のセ・リーグ事務局長、渋澤良一さんだった。渋澤さんは手紙にこうつづってくれた。

「我々の組織は、経理、事業、広報、法務などのプロフェッショナルが集まっている集団です。どの分野であれ、プロフェッショナルとして一人立ちしたら、一緒に仕事できる日がくるかもしれません。その日を楽しみにしています」

 ビックリしたと同時に、うれしかった。プロ野球を運営する仕事というのはプロフェッショナルの集まりなのか――目から鱗の心境だった。あれから30年、今ではプロ野球に絡んだ仕事もずいぶん選択肢が増えたようだ。スポーツメーカー、トレーナーや理学療法士、通訳、あるいは球場そのものに就職するとか、データを分析する会社に入るという手もある。各球団に採用されることも可能だし、NPBにだって就職できる。

 最近、福井で出会った椙村(すぎむら)崇行さんもそんな一人だった。といっても彼は昭和の大学生ではなく、まだ同志社大を卒業して4年という20代半ばの若者だ。山口県の岩国で高校まで野球をやっていたというところも、観る専門だった昭和の大学生とは違っている。ただ、野球に関わる仕事がしたい、どこかのプロ野球チームの球団職員になりたいという熱い思いを手紙にしたためるといった、かつての昭和の大学生と同じようなアプローチを試みながら就職活動に勤しんだ。そして、株式会社福井県民球団に入社することになる。2014年春のことだ。

 福井県民球団、つまり独立リーグ、ルートインBCリーグの『福井ミラクルエレファンツ』は今シーズン、昨年までバッテリーコーチを務めていた田中雅彦監督のもと、4月8日の開幕戦を見据えて練習に励んでいる。田中監督と言えばPL学園のキャッチャーとして20年前の夏、横浜と延長17回を戦った準々決勝に途中出場。近大を経てドラフト4位でマリーンズに入団し、その後、スワローズに移って2016年限りで現役を引退した。昨年から福井ミラクルエレファンツで、指導者としてのキャリアをスタートさせている。

 そんな福井ミラクルエレファンツで、広報・運営係長を務めているのが椙村さんだ。「スタッフは5人なので、すべてのことに携わってます」と笑う椙村さんは、念願のプロ野球の運営に関われたことで目標を叶えた一人である。椙村さんはこう続けた。

「ここでプレーする選手たちは、いつの日かNPBでプレーすることを目指していると思いますけど、そこは僕も同じです」

 いつの日か、NPBで球団のビジネスに携わりたい――そのための修行の日々。言うまでもないが、だからと言って心ここにあらずというわけではない。福井にミラクルエレファンツをいかに根づかせ、どう発信していくかに力を尽くすことが今の椙村さんに課せられた課題だということは重々、承知している。椙村さんは言った。

「ミラクルエレファンツというチームは、まだ福井県内での認知度は高くありません。福井には強い高校野球のチームがいくつもありますが、そこを出たプロを目指す選手たちはドラフトにかからなければほとんどが県外へ出てしまうんです。でもミラクルエレファンツへ行けばNPBへの道も開けると思ってもらえれば、地元出身のいい選手が集まってきて、福井での認知度も高まると思うんです」

 夢を叶えるために頑張っている野球人は選手だけに限らない。今年は田中監督、ミラクルエレファンツの選手、そして椙村さんの奮闘ぶりを見るために、ぜひもう一度、福井へ足を運びたいと思っている。

文=石田雄

関連情報

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング