相性と言ってしまえばそれまでだが、意識すればするほど、ボールは吸い込まれるように甘いコースへと入っていった。
3月30日に6会場で2018年のペナントレースが一斉に開幕。本拠地・東京ドームに阪神を迎えた巨人の先発マウンドには、昨季17勝を挙げて沢村賞を受賞したエース・菅野智之が立ったが、圧倒的なパフォーマンスが期待されたのとは裏腹に、予想外の結末が待っていた。
立ち上がりは最高だった。一番の
高山俊から三番の
糸井嘉男まで、すべてゴロで打ち取り、8球で終える理想的なピッチング。若干、その表情からは気負いも見てとれたが、2回も先頭の四番・
ロサリオから三振を奪うなど、ここまでは完ぺき。ところが、である。
続く福留孝介にはカウント1‐1からの3球目のストレートが、真ん中寄りのアウトコース高めに入ったところを痛打され、左翼ポール直撃の先制弾を許してしまう。冒頭はまさにこのシーン。菅野は福留に対して通算で打率.353、2本塁打と苦手にしており、加えて福留が東京ドームでは打率.395、12打点とめっぽう強いことは理解していたようだが、相性の悪さが力みにつながった。
3回の第2打席(中前打)、5回の第3打席(中前打)と、第1打席と同じコースのボールをとらえられ、猛打賞を許している。なお、2回は福留の先制弾のあとさらに1点を失い、3回も福留の中前打をきっかけに2点を許すなど、福留を起点としたタイガース打線に7回12安打5失点と打ち込まれ、開幕戦初黒星(過去3戦3勝)を喫した。
これには菅野も「やられました。特に福留さんには全部良い当たりをされてしまいました。一選手として、本当に情けないです。(開幕戦はただの)143分の1試合じゃないので、悔しいし、申し訳ないです」と自身の投球を振り返る。
独特の緊張感のある開幕戦であることを差し引いても、制球力に秀でた右腕の乱調は意外で、敵将・
金本知憲監督の「福留が景気づけで打ってくれて、まさかの菅野から先制。これだけ打てるとは思わなかった」がその異常さを表している。
球場を去り際、菅野は「長いシーズンが始まるので、今日の結果を受け入れて次回、頑張ります」とコメント。4年ぶりのV奪回へ向けて、ライバルとなるであろう阪神(特に福留)に対し、この試合のイメージを引きずらなければいいが、果たして。
文=坂本 匠 写真=榎本郁也