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センバツ現場発/決勝進出も「勝った気がしない」と歯切れが悪かった智弁和歌山高・高嶋監督

 

第90回記念選抜高校野球大会が4月4日、いよいよ決勝戦を迎える。球児による13日間(準々決勝翌日の休養日1日を含む)の熱戦が繰り広げられたが、現場でしか分からない「センバツリポート」をお届けしていく。

門馬監督は「監督の差じゃないですか……」


智弁和歌山高は18年ぶりの決勝進出。名将・高嶋監督が育て上げてきた猛打は今春も健在である


 東海大相模高との準決勝を前に歴代1位の甲子園通算67勝を誇る智弁和歌山高・高嶋仁監督は親しみを込めてこう言った。

「年を取るごとに、何を考えとるのか分からんようになってきた……。大阪の監督によう、似とる。ヤバいですよ!! 体型も似てきている(苦笑)」

 名将が評したのは、準決勝で対戦した東海大相模高・門馬敬治監督である。

 両校は2000年春の決勝で対戦して以来の顔合わせ。18年前、智弁和歌山高は2対4で敗れ、紫紺の大旗をあと一歩で逃している。

 門馬監督は18年前の思い出をこう語る。

「あのときは初めての甲子園。テレビで見ていたとおり、ベンチ中央で仁王立ちしていた。これだけ甲子園で勝たれて、甲子園を知り尽くして自信、風格、立ち居振る舞い……。それが選手の安心感、あれだけバットを振る勇気につながる。私は真ん中には立ちませんが……」

 就任1年目にセンバツを制して以降、門馬監督は2011年春、15年夏と甲子園で頂点を極めてきた。春夏を3度の優勝は高嶋監督に並ぶ数字。実績に裏付けされたプライドが、門馬監督にはある。

「時間が経たせてもらった。追いつかない部分はあるが、信念でぶつかっていきたい」

 その信じる力こそが、攻守に攻め続ける東海大相模高の伝統である「アグレッシブ・ベースボール」。初回に4点を先制して主導権を握るが、中盤に勝ち越される厳しい展開も、相手のミスにつけ込み、集中打で引っ繰り返す。だが、終盤の猛攻に遭い、8回に4点リードを追いつかれると、延長10回に力尽きた(10対12)。結果的に「伝統の猛打」に屈する形となった

 門馬監督は試合後、唇を噛み締めて言った。

「監督の差じゃないですか……」

 その差とは?

「最後まで一貫として(バットを)振り抜きましたよ。打席での雰囲気、風格を作り上げている。ボール球を打てる強さがあった。(監督の指示の徹底が)やっていないと打てないですよ。バッテリーはどこまでゾーンを広げて良いのか? 難しかったはず。打ち取れるボールを痛打された」

 百戦錬磨の指揮官でさえ、名将から学ぶことが多かった。門馬監督はしみじみと言葉を選びながら「難しい」を5回繰り返した。

「勝つのは難しい。神奈川で勝つのは難しい。甲子園で勝つのはもっと、難しい。野球は難しい。高校野球は難しい。本気の経験、本気の失敗をした彼らには夏がある。彼らは生かせると思います」

 甲子園101試合目で通算68勝目を挙げた高嶋監督は18年前のリベンジを果たす形となったが「勝った気がしない。どさくさに紛れて勝った感じで……」と歯切れが悪かった。準々決勝に続く2ケタ失点で、3失策が大量失点につながったことからも、決して納得のいく内容ではなかった。だが、高校野球はトーナメント。明日につながる、勝ったという事実が重要である。

 なお、冒頭で高嶋監督が語っていた「大阪の監督」とは、こちらも親しい間柄にある大阪桐蔭高・西谷浩一監督のことである。門馬監督と西谷監督は1969年生まれの同級生だった。

 決勝は甲子園通算68勝の高嶋監督と同48勝の西谷監督による名将対決、第90回記念大会にふさわしい名門校同士の激突となった。昨秋の近畿大会決勝では大阪桐蔭高が1対0で智弁和歌山高を下している。グラウンドだけでなく、ベンチの“腹の探り合い”に着目するのも興味深いはずだ。

文=岡本朋祐 写真=BBM
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