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敵将も舌を巻く智弁和歌山高・高嶋仁監督の”統率力”

 

ベンチの前で“仁王立ち”は、智弁和歌山高・高嶋監督の代名詞だ


 試合後に、その名を口にする監督は少なくない。

 選手が主役なのは言うまでもないが、智弁和歌山高に敗れた指揮官たちは、ベンチ前で仁王立ちする高嶋仁監督の“姿勢”に脱帽するコメントを残す。

 今春のセンバツでもそうだった。3回戦、4対7で敗れた国学院栃木高・柄目直人監督は「打撃の圧力、相手打線の集中力は高かったですが、つけ入るスキもあった。高嶋先生も感情がブレることなく、とにかく攻め込んできました。監督の差です」と話せば、準決勝で延長10回の末に10対12で乱打戦に敗れた東海大相模・門馬敬治監督は「(相手打線は)一貫して振り切ってきた。高嶋監督がぶれなかった。監督の差が出ました」と、いずれもブレない采配を称賛した。

 歴代最多の甲子園68勝を誇り、春夏3度の優勝経験を持つ名将に対し、2人の監督が口をそろえたのは「勉強させられた」。育成に指導、そして采配――。多岐にわたる監督業の中でも、光る高島監督の“統率力”に舌を巻く指揮官は数知れない。

 むろん、その“統率力”を一番、感じているのは選手たちだ。今春センバツでは春夏を通じて史上初となる2試合連続(準々決勝、準決勝)での5点差の逆転勝ち。いずれも守備のミスから劣勢に立たされながらも「対策なんてない。正面から向かうしかない。投手のボールも配球も見ただろ。もうボチボチ行けや」と指揮官がゲキを飛ばすと「何点取られても絶対に諦めないのが智弁和歌山。守りのミスが出れば打って返す」と、準々決勝でサヨナラ打を放った黒川史陽が口にするなど、取られても取り返す強攻をナインが体現してみせた。

 指揮官がナインに前を向かせ、一丸となって相手に挑む。その力は、大観衆をも魅了し、逆転機が訪れるとスタンドは自然と沸きに沸く。5点差を跳ね除けた準々決勝をスタンドで観戦していた東海大相模高・門馬監督は「こんなに智弁和歌山を応援する人がいるだと痛感させられた」と語っていたほどだった。

 そういえば、昨夏の甲子園で埼玉県勢初の全国制覇を成し遂げた花咲徳栄高・岩井隆監督も、高嶋監督の背中に感銘を受けた一人だ。「笑顔、そして仁王立ち。あの姿を見る生徒(選手)は、すごく落ち着くんだろうな、と感じたんです」と、埼玉大会ではベンチの端に陣取り、しゃがみこんで戦況を見つめる岩井監督も、甲子園では中央で腕を組んでの仁王立ち。普段通りのプレーができず、出場するも甲子園で勝てない年が続いた中で「自信を前面に出して、力以上のものを引き出して上げたい」という思いから“高島スタイル”を採り入れた。

 堂々たる立ち振る舞いで、ナインを鼓舞する高嶋監督は、対戦校である相手監督にも大きな影響を与えているのは確か。今年72歳を迎える名将の存在感は、増すばかりだ。

文=鶴田成秀 写真=牛島寿人
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