週刊ベースボールONLINE

プロ野球回顧録

西武の8点差をはね返す逆転サヨナラ勝利で思い出した2002年の9点差逆転劇

 

「つなぐ野球」を徹底して


大乱戦の勝負を決めたのは松井の一発。7回裏一死一塁で右翼席へ勝ち越し弾。「こういうことがあるから、野球は分からんよね」と語っていた


 8回表終了時点で0対8。敗色濃厚から西武が大逆転勝利を収めた。4月18日の日本ハム戦(メットライフ)。8回裏に7点を返し、1点差に迫ると、9回裏、無死満塁から森友哉が2点サヨナラ二塁打を放った。

 この極上の逆転劇を見て思い出したのが、2002年、マジック34を初点灯させたドラマチックな夜だった。8月16日の近鉄戦(西武ドーム)。3時間56分の軌跡のドラマにだれもが酔いしれた。松坂大輔がマウンドを降りたとき、大きな落胆のため息に包まれた西武ドームが信じられない歓喜の結末に揺れた。9点差からの大逆転。球団史上初の劇的な勝利に、4万2000人の大観衆が総立ちになった。

 先発の松坂が打ち込まれ、1回2/3、8失点KO……。2回を終了して0対9。だが、意外なほどレオベンチに重苦しい空気はなかった。いつもと変わらぬ姿勢を貫けばいい。奇跡を呼び起こす起点になったのは、伊原春樹監督が「つなぐ野球」に欠かせないと位置づけたトリオだった。一番・松井稼頭央、二番・小関竜也、そして九番・高木浩之。このレオ野球の演出者たちが、ビッグスコアの中に散りばめられたスパイスになった。

 3回に3点を返した。4回に打者11人を送り込んで7連打で逆転した。同点にされた直後の7回に決勝の2点が入った。

 この得点イニングはこの年の西武野球を象徴した。粘る。つなぐ。球場全体に敗戦ムードだけが漂っていた3回裏、先頭の高木浩がセンター前へはじき返した。続く松井も右前へ。小関の2点二塁打が右翼線を抜ける。初回二死一、二塁を逃し2回も簡単に三者凡退。しかも9点差。だが、すべては「つなぐ野球」を忠実に実践した、この3連打から始まった。

 4回の7得点も二死からだった。途切れかれていた糸を松井、小関のしぶとい連打が線で結んだ。5回、6回と好機を逸し、7回表、吉岡雄二の17号ソロで同点とされた。しかし7回裏一死後、高木浩が冷静に四球を選び、松井の決勝24号2ランを呼び込んだ。

「一番、二番と四番(カブレラ)、八番(伊東勤)、そして九番は固定する。あとは枝葉で相手投手によって自在になる」

 これがつながりを重視する指揮官の持論。九番、一番、二番の連鎖に4回裏の高木大成の代打2点打、カブレラの37号2ラン、エバンスの逆転2点打が連なった。球史に残る大逆転劇は、選手を適材適所へ配置するまさに伊原監督の理想形だった。

 鳴りやまない大歓声。「チームが一つになった」と松井が全員野球を強調した。

「9点差でも最後まであきらめなかった。最高の形で勝ててよかった」

 伊原監督も珍しく興奮した。

「野手がつないで、つないで……。最後まで切れずにつないでくれた。(選手たちに)感謝、感謝ですよ」

 試合後、シーズンで初めて全体ミーティングを招集した指揮官は選手を前にして言った。

「感動をありがとう」

 もう勢いを止めるものはない。レオの視界の先にVゴールがはっきりと見えた瞬間だった。

写真=BBM
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング