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球界痛快発言

豊田泰光「下手クソ? その下手クソを使ってるのはだれですか?」/球界痛快発言

 

80年を超えるプロ野球の歴史。球界の偉大な先人たちが残した、愉快で痛快な「コメント」を紹介していこう。

西鉄・豊田泰光の三原脩監督への強烈なひと言


西鉄・豊田泰光


「豊田の毒舌でやめていった選手は、いっぱいいる」

 西鉄3連覇時の五番打者・関口清治(元近鉄監督)の言葉だが、関口だってひどいことを言っている。

 その豊田が、プロ入りして、最も自信を失ったのがカーブへの対処。とにかくその曲がりの大きさ、鋭さにギブアップしてしまったのだ。「林さん(義一、大映)のカーブは、まるで逃げたほうに戻っていくようだった」と豊田は完全なカーブノイローゼ。思い余って、先輩の関口に「カーブの打ち方、教えてください、お願いします!」。

 プライドが高く、気の強い豊田にとって、これは、最大の譲歩。“屈辱に近いお願い”と言ってよかった。しかし、関口の返事は「ゼニ持ってこい!」。マージャンの最中だったが、振り向きもしない。

 3連覇の西鉄、暴力はなかったという。三原脩監督は「アマは和して勝つ。プロは勝って和す」の名言を吐いたが、西鉄の選手は大人で、一人ひとりを尊重して、悔しまぎれに八つ当たりの鉄拳などというのはなかった。

 しかし、“口の暴力”はすごかった。失敗に対しては、罵声が飛ぶ。豊田がエラーすると、遊撃のポジションを狙う控え選手の「それでもレギュラーか。下手クソ!」の声がベンチから飛ぶ。「ひどい話だけど、それは分からんでもないんだ。みんな必死なんだから」と豊田。サヨナラエラーしたときは、帰りのバスに乗ると「歩いて博多まで帰れ!」と言われたことも。

 こういう豊田をかばい、使い続けたのが、三原。豊田も三原にだけは信頼を寄せていた。ところが、ある試合で、エラーすると味方ベンチから例によって「下手クソ!」の声が飛んだが、それにまじって三原の「下手クソ!」もあるではないか!

 豊田は堪忍袋の緒が切れて、「下手クソ? その下手クソを使ってるのはだれですか?」のひと言となった。三原はさすがに「悪かった」と謝ったという。いまのプロ野球、監督と選手の間に、この白刃で斬り合うような真剣味はない。

文=岡江昇三郎 写真=BBM
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