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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

「練習1時間半」で大阪桐蔭追い詰めた寝屋川高校のメンタリティー

 

「あわや大金星」のゲームを展開


寝屋川・藤原涼太


「“勝った!”と思った次の瞬間、“負けた”」と思いました(藤原涼太投手)。

 センバツ優勝校からの大金星は、するりと逃げた。高校野球春季大阪府大会準々決勝。大阪桐蔭を相手に1点をリードしての9回裏二死二塁、打者・中川卓也がセカンド正面のゴロを打った瞬間、誰もが「勝った!」と思った。しかし、二塁手がこれをトンネルし同点。なお二死一塁から、第1、第2打席で藤原に連続三振を喫していた根尾昂がレフトフェンス直撃のサヨナラ打を放って、ゲームは決した(5対4で大阪桐蔭)。

「あわや大金星」のゲームを展開したのは、大阪の公立進学校・寝屋川。「絶対王者」の大阪桐蔭が、府下の公式戦で公立校相手に星を落とせば、2010年夏以来の珍しい出来事になるところだった。

 だがもちろん、だれも最後にエラーしてしまった二塁手を責めることはない。ピッチャーの藤原は、その直後こそガックリした表情を見せたものの、その後は二塁手に声をかけてから投げたし、試合後には、「また夏頑張ろう」と声をかけたという。達大輔監督も、「もうちょっとで日本中を沸かせることができたんですけどね〜」と残念がりながらも、「自分も、最後にひと声かけられなかったですからね」と、反戦の弁が口をつく。

 冒頭の藤原のセリフはちょっと禅問答のようでもあるが、「それまで、何も考えず(邪念なしに)投げていたのが、あの瞬間、“勝った”と思ってしまった。それに気づいて、次の瞬間“そんなことでは甘いな”と気づいた」ということなのだ。なかなかに、目指しているメンタリティーが高いところにあることがうかがえる。

練習で貫かれる合理主義


 実はこの寝屋川、平日は「練習時間は1時間半」なのだとか(グラウンドは他部と共用)。そんな学校がどうして、大阪桐蔭をあと一歩まで追い詰められたのか。「その練習時間で私学に勝とうと思ったら、集中して質の高い練習をするしかない」(藤原)というのがキーワードだ。

 そのために、達監督の提唱する合理主義が貫かれる。例えば(個人の技術練習のときと思われるが)、一般的な「○○を何本」というスタイルでなく、「納得できなければ集中してやり続けるし、納得できたらすぐ終わる」というスタイルを取ったりするという。

 ゲームの中でも発想の転換はある。この日は例えばカウント2−0になったとき、それをピンチととらえて変化球でカウントを整えるのでなく、「ストライクゾーンに、ストレートに見えて少し動く球を投げて打ち取るチャンスととらえる」という戦術がハマった。

角度を変えて勝利にアプローチ


 いまや、高校球界では、公立は私学と同じ方法論を取っていたのでは勝ち目はない。どう角度を変えて勝利にアプローチしていくかが、大きなポイントになる。

「7、8、9回に強いチームを目指してきたので、リードされても焦りはありませんでした。ただ、エラーがなければ負けていたので、まだまだ足りないところがある、という勉強になりました」(根尾)というように、常に日本一を目指してチームビルディングをしていく大阪桐蔭のメンタルづくりも非常に厳しく、志の高さがあるが、それを倒そうとする公立校にも、そのための厳しいメンタルづくりと、方法論が要求される。

「(7回までの)0対1のまま終わっていたら、“ナイスゲーム”で、何となくの満足感で終わる。最後に悔しさを持って終われる形になって、夏に向けてはよかったんじゃないですか」と達監督。“公立だから、善戦でよし”というメンタルでないところが、何とも頼もしい。

 大阪桐蔭を関大北陽、履正社といった私学が追うと見られるこの夏の北大阪だが、この寝屋川をはじめ、吹田、池田、四条畷、大冠、豊中、香里丘、汎愛、大手前、刀根山……と、有力私学を倒す力を秘める公立校の名前はいくらでも上がる。それぞれがどんなアプローチで「ひと泡」を目指すのか、を見るのも、高校野球ならではの楽しみだ。

文=藤本泰祐 写真=BBM
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