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大阪桐蔭高が「100パーセントの確認」を合言葉にする理由

 

春の府大会、大阪の公立校・寝屋川高との準々決勝。大阪桐蔭高は最終回、1点を追う展開に追い詰められたが、主将・中川が“奇跡”を起こしている


 大阪桐蔭高には昨秋の新チーム結成以降から、一貫とした「100パーセントの確認」という約束事がある。

 説明するまでもなく、最後の1球まで気を抜かない。あきらめず、全力プレーを怠らないことだ。

 主将・中川卓也は昨夏、仙台育英高(宮城)との甲子園3回戦で大きな“傷”を負った。大阪桐蔭高1点リード(1対0)で迎えた9回裏二死一、二塁からの遊ゴロで、遊撃手が一塁送球。一塁手・中川は二遊間の当たりで、遊撃手がそのまま二塁へ送球すると思い込み、確認がやや遅れたという。結果的に一塁ベースを踏み外す、痛恨のミスを犯した。「踏んでいれば勝利」を、逃してしまったのである。

 場内は一気に仙台育英高の押せ押せムードとなり、二死満塁からの二塁打で、大阪桐蔭高はサヨナラ負けを喫した(1対2)。史上初となる、2度目の春夏連覇を逃したのである。

 中川はこのプレーを、一瞬たりとも忘れたことはない。この3回戦は、第4試合のナイトゲーム(試合終了18時41分)。宿舎へ戻り、ミーティングや夕食を終えると、すでに、日付が変わろうとしていた。中川の足は自然と、主将・福井章吾(慶大1年)の部屋に向いた。

「『キャプテンが折れたらアカン。お前が折れたらチームも折れるぞ』と言われて、一層自分たちのチームでやってやろうという気になれた」

 主将の座を引き継いだ中川は自戒の念も込めて、冒頭の合言葉を設定したのだ。

 今春のセンバツでは一瞬の気の緩みも見せることなく、史上3校目の春連覇。先輩の無念を晴らしたが、まだ、道半ば――。智弁和歌山高との決勝のゲームセットの段階から、昨夏に逃した春夏連覇への挑戦が始まったのだ。

 5月12日、公立校・寝屋川高との春の府大会準々決勝は追い詰められた。9回表を終え、1点リード(3対4)を許す。残すは大阪桐蔭高の最終回の攻撃。二死二塁の土壇場で、打席に立ったのは、中川だった。打球は相手二塁手へのゴロ。誰もが万事休す――と思ったが、寝屋川高の二塁手がまさかの後逸で、同点とする。大阪桐蔭高は九死に一生を得たチャンスを逃さず、なおも、二死一塁から次打者。根尾昂(3年)がサヨナラ打を放っている(5対4)。

 勝利まであと一つ。中川は昨夏の甲子園3回戦と、まったく逆の立場を味わった。1球の怖さ――。高校野球は「教育の一貫」と言われるが、中川はこの上ない教育現場に立ち会ったことになる。

 あの4万2000人の大観衆の前で“傷み”を味わっただけに、寝屋川高の二塁手の“心情”は自分のことのように分かる。スポーツは相手をリスペクトして、初めてゲームが成立する。奇跡的なサヨナラ勝ちも、決して手放しでは喜べなかったに違いない。勝負に徹する状況下でも、中川の心の中には“思いやり”が宿っていたはずだ。

 多くの野球人が存在を信じる“野球の神様”が与えた中川への春の1シーン。負ければ終わりの夏へ、大阪桐蔭高の主将は人として大きく成長した。あとは史上初、2度目の「春夏連覇」への挑戦を迷いなく進むだけだ。

文=岡本朋祐 写真=石井愛子

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