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編集部発25時

巨人・吉川尚輝の可能性/週べ編集部25時【0528編】

 

これは週べ編集部の逡巡と決断をつづった超不定期連載である。たぶんに言い訳がましい内容が含まれているので興味ない方は読み飛ばしてください。

坂本勇人は「菊池みたいというか……」と言った


巨人・吉川尚。打撃には課題あり。今後、打てずに外される可能性も当然ある


「あいつ、いいですよ」

 昨年末に企画した立浪和義さん(元中日)との対談の中で、巨人の遊撃手・坂本勇人が言った。

 いま売り出し中の巨人セカンド・吉川尚輝のことだ。2017年は、故障もあっても本領発揮とは言えなかったルーキーイヤーだが、最終戦に出場し、攻守でインパクトを残していた。

 坂本は、「菊池みたいというか……」とも言った。

 広島菊池涼介。圧巻の守備範囲を誇るセカンド守備の革命児だ。吉川尚にとって中京学院大の先輩でもある。

 日本プロ野球草創期、セカンドは「エラーしなきゃいい」と言われたポジションだった。右打者がほとんどだった時代。三遊間に比べればゴロの勢いは弱く、捕球後、一塁までの距離も短い。併殺時の二遊間のコンビネーションもほとんどなく、あまり重視されていたポジションではなかった。

 変えたのが、東京セネターズに1936年加入した苅田久徳だった。それ以前は遊撃守備の名人として鳴らし、隠し球の元祖とも言われる男だ。帯同した巨人の渡米遠征で見たアメリカ選手のプレーからセカンドの重要性を感じ、自ら希望し、セカンドに入った。

 大胆なポジショニング、ショートとのあうんの呼吸の併殺、さらにノールックスローやユニフォームを擦って音を出す空タッチ……。のち入団時からすでにベテラン、しかも38年からは兼任監督だったことで、より自由に守れた、と振り返っていたが、二塁守備は苅田によってモノトーンからカラーの時代に移ったと言える。

 ただ、以後、千葉茂高木守道土井正三鎌田実ら多くの名手が生まれながらも、やはり内野の花形はショート、サードで、セカンドは地味というイメージは変わらなかった。V9を支えた、いぶし銀土井の「二番・セカンド」の印象も強い。多くのファン、そして野球少年たちに「セカンドは職人のポジション」とすり込まれた。

未知数ながら菊池に肉薄する可能性


 右投げ左打ちの隆盛もあって左打者が増え、セカンド方向の打球が強くなっても、このイメージはなかなか変わらなかった。その中で、ある意味、頂点を極めたのは、西武黄金時代の辻発彦だ(86、88〜94年ゴールデン・グラブ)。守備範囲が広く、かつ一つひとつのプレーが堅実。難しいゴロも可能な限り簡単に基本どおりさばいた。より確実性を上げ、さらに投手に“打ち取った”という安心感を与える意味もあった。カバープレーも徹底し、「セカンドで動かなくていい打球はない」と言っていた。打球だけでなく、捕手から投手への返球が逸れた際の対応も常に頭に入れ、守備中、一瞬たりとも気を抜くことはなかったという。

 一方、辻より少し前だが、巨人の篠塚和典(81〜82、84、86年ゴールデン・グラブ)は「守備で魅せたい」という思いを強く持っていた。もちろん、堅実さも兼ね備えた上だが(これは辻も同様。堅実だけでなく果敢なプレーもあった)、確かに華麗なダイビングキャッチの印象は強い。視聴率20パーセントを超えるテレビ中継の中でプレーした巨人と、勝つことで存在意義を示していた当時の西武の違いもあったのかもしれない。

 巨人の理論派セカンド・仁志敏久(99〜2002年ゴールデン・グラブ)もインパクトがあった。「何も考えずにプレーする人間はショートではいいが、セカンドではダメだと思う」と語り、大舞台で勝負を左右する大胆なポジショニングも見せた。彼が理想にしたのは、「なんでそこに! と相手が驚く場所で打球を正面で処理すること」と話していた。ほかもほとんどの選手がそうだが、プロ入り後のセカンド転向だったことで、より深くセカンド守備について考えたという。

 歴史は別とし、いまの球界を見たとき、前述のように左打者、しかも強打者が増えているので、必然的にセカンド方向への打球は強くなっている。かつ一塁手はベース近くを守る必要があり、セカンドの守備範囲はショートより、はるかに広い(センター方向の打球、中継プレーの役割分担次第でもあるが)。しかも捕球時に一塁に近いということは、逆にかなり深い打球でも、捕った後の体のこなし(おそらく6割以上反転する動きが必要)、送球スピード(肩の強さ)により、アウトにする可能性が広がるということでもある。

 瞬発力、肩、勘、判断力、理論、技術、そしてアイデア……。すべてを持ち合わせるなら、“内野の王”となれるポジションであるが、よほどの身体能力と柔軟な発想がなければ、従来の地味なイメージを打破することは難しいだろうと思っていた。
 そこで頭角を現したのが、菊池だった。動きもひらめきも、まさに規格外。日本球界の常識を変えようとしている男と言ってもいいだろう。

 これはもう突然変異のようなものだと思っていたが、さすが後輩というべきか、今年の吉川尚には、未知数ながら、身体能力では肉薄する可能性が感じられる(バッティングはひとまず置いて)。

 ということでいきなり宣伝。今週発売号は吉川尚を起点とし、ほぼ年1ペースでやっているセカンド特集だ。この企画は01年、仁志の活躍と「言葉力」に刺激されて始めたものでもある。

 今回は、吉川尚と、ロッテでセカンドに戻り、同じく売り出し中の中村奨吾のWインタビューを軸としながら12球団のセカンド事情に迫ってみたい。

文=井口英規 写真=BBM
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