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【MLB】松ヤニで投手成績アップの疑惑ありも、実際には科学的などさまざまな工夫によるもの!?

 

松ヤニ疑惑がもたれているアストロズだが、コールも移籍後さまざまなデータなどを駆使し投球を変化させて成績を上げている



 17世紀、イギリスの劇作家ジョン・フレッチャーは「恋愛と戦争ではあらゆる戦術が許される」と語ったそうだが、MLBを取材していると、ルールの監視の目をかいくぐり、多くの球団が他球団を出し抜こうと必死なのが分かる。サイン盗みしかり、今回の松ヤニ騒動しかりだ。
 
 インディアンスのトレバー・バウアー投手が「ステロイドがそうだったように松ヤニが不公平を産んでいる。ルールなんだから厳しく取り締まるべき」や「私の投げるフォーシームは2250回転だが松ヤニを使えば400回転は増える」とツイートした。ネバネバしたもの(松脂)を使ってボールの回転率を上げる不正がまかり通っているというのである。その批判の矢面がアストロズだ。

 アストロズといえば昨季は打撃のチーム。それが今年は投手力でほかを圧倒しているのだ。投手陣の防御率は2.66、被打率.200、385奪三振などMLB1位。けん引しているのは2人のエース、ジャスティン・バーランダーとゲリット・コールだ。2人とも、もともとほかの球団所属中もエース投手だったが、アストロズに移籍して球のキレが増した。バーランダーは昨季、タイガースで防御率3.82の10勝8敗だったのが、シーズン途中の移籍後、今季(現地時間5月19日現在)1.05で5勝2敗。コールも昨季パイレーツで12勝12敗、4.26だったのが今季4勝1敗、1.75である。

 高い回転率は生まれ持っての才能で、通常は変わらないと言われる。しかしスタットキャストのデータを見ると、コールの真っすぐの回転率が毎分2163回転から2332回転に上がった。ゆえに疑われているのだが、ファングラフスが報じたところによると、回転率が上がっているのはアストロズだけではない。ブルージェイズ、ヤンキース、ロッキーズ、タイガースの4球団も数字を上げた。どの球団もルールの監視の目をかいくぐりながら、他球団を出し抜こうと必死なのである。

 そんな中アストロズが投手成績をトップに挙げられたのは、ネバネバしたもの以外にも工夫を続けているからだろう。例えば昨秋、スポーツ・イラストレイテッド誌のトム・ベデューチ記者がレポートしたが、バーランダーが移籍後、同球団自慢のハイスピードカメラで自らのボールのリリースの仕方をコマ送りで精査、スライダーに改善点を見つけ改良した。

 今季もスライダーの被打率は.115である。筆者は4月下旬、コールと話す機会があった。彼は「アストロズの最新テクノロジーはもちろん素晴らしい。だが自分にとって一番役立っているのはバーランダーやダラス・カイケルのようなチームメートと話すこと」と教えてくれた。このチームの投手陣は、チームメートがブルペンに入るときは一緒に行って、意見を交換し合い知恵を共有する。

 コールはパイレーツ時代、チームの方針もあり全体の60から65パーセントがフォーシームだったが、今季はアドバイスを受けて52パーセントに減らし、スライダーやカーブをうまく混ぜる。「今までは真っすぐで外角低めをと意識し過ぎた。今はいろんな球種を投げるから、球の威力を信じてどんどんアタックできる」と言う。総合的な努力が実を結んだのである。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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