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【MLB】カノの薬物使用は高額契約が原因? 出場停止以上に失う代償は大きい

 

スーパースターのカノの薬物使用は衝撃的なニュースだった。カノはこれにより引退後確実といわれていた殿堂入りも微妙になってきた


 マリナーズのロビンソン・カノ二塁手が薬物違反で80試合の出場停止処分を受けた。陽性反応が出たのは春のキャンプ中。MLBの労使協定の取り決めで、禁止薬物が体内から検出されても、即処分とはならない。機構側は、服用が意図的だった証拠をつかまねばならないのだ。

 調査の末、5月15日に「利尿効果を持つフロセミドを使用していた」と発表した。カノも使用自体は認めたが、禁止薬物とは知らなかったと言い訳をした。声明文で「フロセミドは運動能力向上薬ではない。ドミニカ(共和国)でライセンスを持った医師から治療のために処方された。禁止薬物とは知らなかった。もっと注意すべきだった」としている。

 しかしながらその言い訳を信じる者は球界にはほとんどいない。薬物違反者に厳しい、アストロズのエース、ジャスティン・バーランダーも冷ややかな反応だった。2013年に発覚したバイオジェネシススキャンダルでアレックス・ロドリゲス、ライアン・ブラウンなど多くの選手が処分を受け、薬物違反の処分が厳しくなった15年以降、それでも19人の選手が出場停止となり、内5人が元オールスター選手であった。

 投手ではアービン・サンタナ、野手ではマーロン・バード、ディー・ゴードン、スターリン・マルテ、そしてカノである。カノはご存じ元ヤンキースのスター選手。13年のオフに10年2億4000万ドルの巨額の契約でマリナーズに移籍した。メジャー13シーズンで通算2376安打、301本塁打。35歳で契約は今年も含め、まだ6シーズンも残っている。二塁手で史上初の3000本安打、400本塁打の偉業も射程距離である。オールスターゲームに7回選ばれ、2度のゴールドグラブに輝き、さらに第3回WBCのMVPでもある。

 名誉もお金も勝ち得たスーパースターがなぜそれでも禁止薬物を使ってしまうのか。今回のことで、球界関係者が口をそろえるのは、スターのプライドである。カノのように35歳になると身体は20代のようには動かない。それでも自身で設定した高いスタンダードがあり、高額の契約に見合った働きもしたい。お金はあるから、成績が下がっても良いとはならない。あのA・ロッドも薬を使い始めたのは、レンジャーズと史上最高の10年2億5200万ドルの契約をしてからだった。

 カノはバイオジェネシススキャンダルのときも疑いをかけられた一人だったが、証拠は出なかった。そして仮に陽性反応が出て80試合の出場停止処分を受けても、かつてのサンタナ、ゴードン、マルテらは復帰して普通にプレーしている。ついつい油断してしまったのかもしれない。

 しかしながらカノが失ったものはとても大きいのだ。スーパースターゆえだ。80試合の出場停止で今季の年俸2400万ドルのうち半分しか手にできないし、マリナーズが2001年以来のプレーオフに進出しても出場資格がない。そして何より、史上最高の攻撃型二塁手として、殿堂に入るチャンスが微妙になった。ロジャー・クレメンス、バリー・ボンズの2人ですら、多数の投票資格を持つ記者たちにそっぽを向かれている。汚名はおいそれとは拭い去れないのである。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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