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ニカラグア野球紀行

見えてきた世界野球の未来/住田ワタリのニカラグア野球紀行04

 

大学卒業後にアメリカでスポーツ医学を学び、世界各地でトレーニングを指導してきた住田ワタリ氏。今春には、中央アメリカ中部に位置するニカラグアを訪れ、現地の野球事情を視察した。全4回の連載は今回が最終回。中米、世界、そして日本の野球の未来を考える。

ニカラグアで活躍する日本人スタッフ


プロチームが本拠地として使用するヤミル・リオス・ウガルテ球場


「ウノ、ドス、トレス(1、2、3)!」

 コーチの声に合わせ動く少年たち。ニカラグア南部の都市リバスにあるヤミル・リオス・ウガルテ球場。声の主のもとに足を運ぶと、小学校高学年ほどの子どもたちが、ブルペンのマウンドでコーチから投球動作の指導を受けていた。

 1でグラブを胸付近に当て、2で片足を上げ、3で上げた足を下ろしながら前方へ。リリースの5までを数えながら繰り返していた。国が変われば指導法もさまざまで面白い。グラウンドでは野手が外野に広がり、コーチの号令でストレッチを始めた。

「ローサ(バラ色)だからすぐに分かる」

 街の人に教えてもらった球場の壁面は鮮やかな赤紫で、その存在感が際立っている。場内に入るとグラウンドに目をやる大人たちの姿が。「リバス県の選抜練習が始まる」と父兄の一人が教えてくれた。

 この日、プロ野球リバス・ジャイアンツの本拠地では、12歳以下の県代表の練習に20人程度が参加していた。

 数日後、首都マナグアでニカラグア野球連盟の幹部に会う機会があった。ニカラグアの野球の発展にはMLBとの関係強化は不可欠だと口を開いた。公式球はリバスにあるローリングス社の工場で生産され、MLB球団のオフィシャルキャップをかぶる人々をよく街で見かけた。確かに、国際戦略を進めるMLBにおいて、ニカラグアは野球不毛の地である中米の重要国に間違いない。

 話は次第に「プロ選手輩出」にも言及し、「選手を定期的にアメリカに連れていく」と続けた。パーフェクトゲーム(以下PG)と連携し、国内選抜チームで参戦しているという。PGとは、大会や「ショ―ケース」と呼ばれるトライアウトを全米各地で開催する野球サービスで、MLBや大学野球関係者のスカウトも足を運ぶ。今やアマチュア選手がプロを目指す登竜門とも言われている。

「われわれは『MLB球団とのプロ契約』と、『奨学金を得ての大学進学』の2つの可能性を提供している」と力を込める。

 連盟は、若年層から強化した有望選手がアメリカで活躍する青写真を描き、「MLBで活躍するニカラグア出身選手が野球少年のロールモデルになる」と話す。

 一方で、野球普及においては、日本のJICA(国際協力機構)の活動に感謝の意を述べる。JICAAから派遣された隊員は、国内各地で野球の競技力向上や普及活動を担っている。最近では派遣隊員が女子野球チームを発足させ、女子野球の発展にも力を注いでいる。

普及と発展を促す国際大会


将来のメジャー・リーガーを夢見て練習に励むニカラグアの少年たち


 今年の2月。ラテンアメリカのトップを決める、ラテンアメリカ・シリーズがニカラグアで開催され、カリブ海に浮かぶ小国であるキュラソーが招待され、参加した。これまではパナマ、コロンビア、ニカラグアを中心にプロリーグがある国同士で争っていた大会。今年から参加国を増やす取り組みが始まり、来季は南米のアルゼンチンとチリからチームを招待するという。

 ニカラグアはこの大会を3年連続で制している。参加国が増えることに、「(大会の)規模が大きくなれば勝者の価値も上がる」と自信をのぞかせる。

 この試みはMLBの支援があったからこそ実現した背景があるが、国際舞台を用意する意味は大きい。目指す「場所」があり、その「動機」が向上心を煽り、競技力の向上や競技の普及を後押しする。ニカラグア野球もそのプロセスを歩んできたに違いない。

 今度はニカラグアが中心となり「中南米野球の舞台」を引っ張る。アルゼンチンやチリの野球が来年、国際舞台にやってくる。どんな野球をするのだろうかと想像をふくらます。

 ニカラグアの野球熱に触れたこの旅で、世界野球の未来予想図が徐々に見えてきた。そして浮かんでくる一つの疑問。

――今、日本ができることって何だろう?

<完>

●住田ワタリ(すみだ・わたり)
帝京大ではラガーマン。渡米してスポーツ医学を学び、MLBマイナー、ドミニカ共和国、メキシコ、中日ドラゴンズでコンディショニングコーチを務める。2015年は日本ラグビーフットボール協会に所属しU-20日本代表の総務を経験。オフには野球後進国で野球教室を開催するなど世界を渡り歩く。15年11月から17年までオリックスでコンディショニング・ディレクターを務めた。

文&写真=住田ワタリ
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