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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

高校野球の原点をひたむきに突き進む上尾高ナイン

 

埼玉の公立校・上尾高は1984年夏以来の甲子園出場を狙う。練習から全部員が全力疾走、全力発声、全力プレーを徹底している


 高校野球には、何が求められているか。「競技」として取り組んでいる以上、勝つことを目的とするのは当然だ。一方で「学校教育の一環」。甲子園に出場できるのは、ごくわずか。第100回記念大会の今夏は史上最多56校が出場するが、ほとんど球児が地方大会で涙を流す。

 3年間の活動を終えたときに、何が残るか。負けた悔しさだけでは寂しすぎる。勝利を目指す過程において、いかに充実した時間を過ごしたかで、その後の人生が決まると思う。

 公立校受難の時代である。埼玉も春は1995年の鷲宮、夏は98年の滑川(記念大会のため北埼玉)以来、公立校の甲子園が途絶えている。この北埼玉で、84年以来34年ぶりの出場を目指しているのが上尾高である。

 過去に春3回、夏4回の出場を誇り、1975年夏には4強進出。ユニフォーム胸の「上尾高校」の4文字は不変のデザインで、県内には今もなお、ファンが多い人気校として知られる。

 なぜ、上尾高が支持を集めるのか――。

 球場に行けば、すぐに分かる。グラウンドインから場内を支配するムード。ウォーキングからランニングに入る、その瞬間を見逃してはいけない。「上尾歩調」とも呼びたくなる、一糸乱れぬ足並みだ。

 全力疾走、全力発声、全力プレーが徹底されており、シートノックもキビキビと消化。そして、多くの選手がダイビングで試合前からユニフォームは真っ黒。試合前に、そこまでやる必要があるのか――。そんな思いまで抱いてしまうほど、圧倒的な力がある。そんなすがすがしい姿勢が、共感を呼ぶのである。

 JR北上尾駅から0分。日本で最も駅から近いと言われる上尾高の敷地内にあるグラウンドでは、さらに緊張感ある空気が流れる。

 全面土のフィールドはきれいに整備され、足を踏み入れるのも、躊躇してしまうほど。一塁ベンチのホワイトボードを見れば「日本で一番きれいなグラウンドにしよう」と書かれていた。グラウンド整備に全身全霊を込めるのは、松山商高(愛媛)以来の衝撃だった。

 シートノックも、ものすごい気迫だ。守っている野手はもちろんのこと、ファウルグラウンドで声だしする控え部員の“キレ”が抜群。全員が1球に集中して、的確な指示を共有する。練習のための練習ではなく、試合のための練習を実践しているのだ。そして、野球部員である前に生徒であれ、と。技術向上を目指す前に、人間力向上に重きを置いている。

 2010年秋から母校を率いる高野和樹監督は「91番目のレベルが、上尾高校のレベル」と言う。公式戦でメンバー外はスタンドで応援するが、その姿が野球部の「評価」であるということだ。つまり、ベンチ入り20人と控えメンバーとの温度差があってはならない。部員91人の「一体感」が追求するスタイルであり、野球部員としての最低条件なのだ。

 なぜ、そこまで徹底するのか――。

 高野監督は「ザ・高校野球? 古臭いかもしれないが、こだわっていきたい」と語る。かつて高校野球は「精神野球」がスタンダードであったが、最近は「効率化」と誤解を招かねない「楽しもう!!」が横行している印象だ。

 むしろ、上尾高の徹底力は新鮮に映る。一生懸命プレーする姿は、見ている者を熱くする。上尾高の場合は、スタンドを含めた結束力。昨秋は県大会4強と関東大会出場まで「あと1勝」にまで迫る実力があり、今夏への期待も大きい。だが、高野監督、部員とも「力はない」と口をそろえる。

 勝負の世界は厳しいが、上尾高には私学強豪校との実力差を埋める“心”がある。2018年夏、最後まであきらめずに戦う。現場でよく聞かれるコメントだが、高校野球の原点をひたむきに突き進む上尾高ナインには、どこにも負けない「過程」がある。

文=岡本朋祐 写真=桜井ひとし
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