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スコアラーにも働き方改革を!/ 川口和久WEBコラム

 

スコアラーというハードな仕事


現役時代の山脇。渋い選手だったよ


 今回はイレギュラーのテーマで失礼。

 阪神のスコアラー、山脇光治が盗撮で球団を契約解除になった。ほんとバカなことをしやがって……。

 嫌な思いをされた被害者の女性には、球界に携わる一人として、深くお詫びします。

 ただ、かばうわけじゃないけど、山脇は悪いヤツじゃない。球場でも、俺を見つけると、すぐ寄ってきて挨拶をしてくれたし、礼儀正しくて、すごくマジメな男なんだ。

 スマホのシャッターを押すなんて、ほんの数秒でしょ。魔が差したというのは、こういうことを言うのかな。一瞬で今まで積み上げたものが、全部吹っ飛んだんだからね。

 今回、この件について書こうと思ったのは、たぶん、多くの人がスコアラーの仕事をよく知らないだろうなと思ったから。

 正直、俺はやりたくない仕事だった。だって、すごく大変なんだ。

 野球を知ってる人でも「試合を見てスコアをつけるだけでしょ、毎日のように試合を見られて楽しいんじゃないの」と思っているかもしれない。けど、そんな簡単な仕事じゃないよ。

 対投手のデータなら、全打者への全球のコース、球種をチェックし、その投手のカウント球、勝負球がなんで、打者のタイプによって、どのように変えていくかを分析し、打者ならその逆だよね。さらに、大変なのは、それを文章にして、次の日のミーティングまでに報告書にしなきゃいけないこと。

 試合中も集中してなきゃいけないし、分析は試合後だからナイターなら徹夜になることもあるらしい。

 先乗りスコアラーだとチームと一緒に動いているわけじゃない。敵チームに帯同するから出張ばかりだよね。球団によるけど、1球団に対し、大抵1人だし、仕事の性格上、相手チームのスコアラーと飲みに行くわけにもいかん。ストレスはかなりたまると思うよ。

 もともと野球選手は体を動かしてナンボで、数字のチェックや報告書を書くのは、苦手というか、やったことがないというヤツが多いしね。

 プロ野球は興行だから当たり前なんだけど、お客さんを呼んでくれる選手中心に動いている。スコアラーに対してだって、いくら「僕は何日徹夜しました」と言おうが、情報が少なかったり、分析が甘かったら文句を言われる。どの世界でもそうかもしれないけど、陰で頑張っている人の努力って、なかなか見えないんだ。

 企業でもそうでしょ。会社が「経費削減を頑張りました!」って言っても、実は子会社に払うカネを減らしているだけだったりする。

裏方さんの待遇改善を


 球界でもスコアラーだけじゃなく、トレーナーや打撃投手、ブルペン捕手とか、みんな、しわ寄せとは言わないけど、どうしても不規則な労働時間になって、しかも経費削減の対象になっていることは多い。そういう人はまた、チーム愛が強く、しかも大抵我慢強いから、つい頑張っちゃうんだろうな。そういう人に支えられて、プロ野球のチームは成り立っている。

 ただ、それも限界があるよね。

 俺は、これをきっかけとは言わないけど、各球団が裏方さんの待遇改善を考えていいんじゃないかなと思う。よく「ストレス社会」というけど、球界でも裏方さんは、ためている人が多いと思うし、その中でも、スコアラーってきついんじゃないかと思うんだ。

 考えてみてよ、球団は1億円プレーヤーを何人も抱えている大企業でしょ。なのに、裏方にだけブラック企業でいいのかな。「引退しても仕事があるだけありがたく思え」というお偉いさんが、まだまだ多いような気がするんだ。

 実際、選手の年俸をほんの少し減らしただけでも、スコアラーだって一気に人数増やせるし、シフトも楽にできるでしょ。結果的にプロ野球選手のセカンドキャリアになって、自チームのプラスになるとも思うんだけどな。どう?

 最初に書いたとおり、俺は別に山脇をかばうわけじゃない。あいつの事件をきっかけに思ったことを書いただけ。

 だいたい、どういう状況で事件を起こしたかもスポーツ新聞に書いてある情報以上にはしらんしね。

 ただ、略式起訴されて罰金を払っただけじゃなく、球団も契約解除された。名前も写真も全国にさらされた。悪いことをしたんだから仕方がないと思うかもしれないけど、俺はもう十分じゃないかと思う。
 
 すぐにとは言わないけど、彼が球界で生きる道があるなら、それを閉ざさないでほしい。

 甘すぎるかな、俺。

写真=BBM
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