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石田雄太の閃球眼

松坂ドラフト世代の競演はあるか?/石田雄太の閃球眼

 

1999年のオールスター第1戦の表彰式。左から巨人上原浩治、横浜・鈴木尚典、巨人・松井秀喜オリックスイチロー西武松坂大輔※所属は当時


 松坂世代とは、1980年度に生まれた選手たちのことだ。横浜高が甲子園で春夏連覇を果たした1998年、高校3年生だった彼らは、そのど真ん中にいた松坂大輔という太陽を、眩いばかりの存在として仰ぎ見ていた。その輝きがケタ外れだったからこそ、そこに上り詰めようとした選手たちが切磋琢磨し、レベルの高い選手が次々と現れた。

 松坂が高校を卒業する前年の1998年のドラフト会議では、1位で指名された松坂世代の選手が、松坂を含めて8人(タイガースの藤川球児、ベイスターズの古木克明、スワローズの石堂克利、カープの東出輝裕、ホークスの吉本亮、ファイターズの實松一成、ブルーウェーブに指名されながら入団しなかった新垣渚)もいた。

 つまり、松坂世代が高校を出てプロの世界へ一気に飛び込んできたこの年、松坂世代ではない4人の選手がドラフト1位でプロ入りを果たしていることになる。それがマリーンズの小林雅英、バファローズの宇高伸次、ドラゴンズの福留孝介、ジャイアンツの上原浩治である。1位以外ではドラゴンズの岩瀬仁紀、ジャイアンツの二岡智宏、カープの新井貴浩、マリーンズの里崎智也もいた。彼らも松坂世代ではない。大学や社会人を経た彼らは全員、松坂よりも年上だ。しかし、ドラフト同期として松坂の存在を意識させられてきたという点で、ある意味、“松坂ドラフト世代”とくくってもいいように思う。

 思い出すのは今から19年前、1999年のオールスターゲームが近くなってきたときのことだ。福留がこんな話をしていたことがある。

「アイツ、電話で言いよるんですよ。『オールスター、一緒に出ましょう』って。自分はすっかり出る気でおるんやから……そりゃ、彼は出るに決まってますけどね(笑)」

 当時、福留に電話を掛けたのは松坂だった。まだ18歳の高卒ルーキーは、3つも年上の先輩に小生意気な口をきいていた。それがちっとも嫌味に聞こえないからこそ、松坂は先輩から可愛がられる。

 結局、この年のオールスターに松坂とともに出場することになった福留だったが、開幕前は苦しんだ。オープン戦で27打席連続ノーヒットを記録、あの打ち方では打てないと酷評の限りを尽くされた。しかしフタを開けてみれば開幕から試合に出続け、7月の時点で3割をキープしていた。

「僕、打てないことについては何とも思いませんでした。三振したって平気。だって自信のあることだったら、少しくらい結果が出なくても何とも思わないですよ」

 一方、松坂より5つも年上の上原については、松坂にこんな話を振っていたことを思い出す。

「オレ、大学4年の秋のリーグ戦の真っ最中に高校の教育実習に行ったんだけど、ひょっとして、大輔くらいの生徒たちを教えたことになるのかなぁ。いやぁ、ショックだなぁ。教育実習の先生と生徒の関係か。オレがお前を教えていたら、絶対、殴ってやったのに(笑)。大輔は教育実習の先生とか、バカにしそうだもんな」

 このとき、松坂は「勘弁して下さいよ」と苦笑いを浮かべていたが、上原にとって年下の松坂は常に意識させられる存在だった。プロ1年目、松坂が16勝をマークしたシーズン、上原は20勝を挙げている。にもかかわらず、上原よりも騒がれた松坂に対し、反骨心を抱いたとしても不思議ではない。上原が言う。

「自分は1回、野球をあきらめた身ですからね。浪人中の1年間は野球をあきらめて予備校に行って、アルバイトをしていました。あのつらさは経験したものにしか分からない。プロの世界なんて野球エリートばかりでしょ。そういう人には絶対に負けたくない」

 今シーズン、松坂の初先発となった4月5日のナゴヤドームの試合では、リリーフとして上原も登板。同じ舞台での共演が実現した。4月20日には松坂と福留が対決、福留が2本のヒットを放った。テンポよく投げたい松坂に対し、焦らすように自分のバッターボックスでのルーティンを崩さず、ゆっくりと構える福留の貫禄と、それをちゃんと待つ松坂の先輩に対する敬意が興味深い対決だった。

 1999年、彼らがルーキーイヤーのオールスターゲームにはその年の12人のドラフト1位のうち、松坂、上原、福留の3人だけが出場していた。その後、アテネ五輪、2度のWBC、メジャーリーグと、ともに歩み、戦ってきた戦友――彼らを松坂を主語にした“松坂ドラフト世代”とくくったら上原、福留に叱られそうだが、NPBに戻ったこの3人が今年、ドラゴンズ、ジャイアンツ、タイガースのユニフォームを着てオールセントラルのベンチに顔をそろえたら、こんなに胸躍ることはない。

文=石田雄太 写真=BBM
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