長いプロ野球の歴史の中で、数えきれない伝説が紡がれた。その一つひとつが、野球という国民的スポーツの面白さを倍増させたのは間違いない。野球ファンを“仰天”させた伝説。その数々を紹介していこう。

日本シリーズには勝ったが……

　1980年代前半、西武はグラウンド内外で巨人を強烈に意識していた。

「野球界の要点は巨人。追いつけ追い越せ、だ。することなすこと巨人を標的にして作戦を立てていました」と球団代表を務めていた坂井保之氏は述懐する。

　死闘を演じた巨人との83年の日本シリーズ。第7戦、すでに左腕投手の角三男を使い切った巨人ベンチを見越して、広岡達朗監督は左の代打陣を次から次へと起用して逆転劇を完成、西武を日本一へと導いた。

　その年のオフ、坂井ら球団首脳は分析した。

　あそこで巨人にサウスポーが一枚いたら西武は勝てなかったのでは……。

　自分が巨人のフロントなら、どうするか。何がなんでも極め付きの左のリリーフ投手を補強する。日本一の左といえば、江夏豊しかいない。江夏を獲られたら、西武とて来年のシリーズは危ない。だから、巨人に獲られる前に西武が江夏を獲る！――翌84年、江夏はライオンズ・ブルーのユニフォームを着ていた。

　当時、西武には永射保という左のすごい変則左腕がいた。江夏ほどの大投手でも“飼い殺し”辞さずの狙いだった。

　そういう意味では、当時の西武はえげつなさも持ち合わせていた。

写真＝BBM