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石田雄太の閃球眼

NPBはいますぐ“田澤ルール”を撤廃すべきだ/石田雄太の閃球眼

 

マーリンズに所属していた開幕当初の田澤純一。現在はタイガースとマイナー契約し、メジャー復帰を目指している


 今から10年前。

 2008年の夏、都市対抗野球が行われていた東京ドームにメジャーのスカウトが集結していた。お目当ては新日本石油ENEOSの右腕、田澤純一だった。その後、田澤は日本のプロ野球を経ることなく、直接、メジャーリーグへ挑戦することを希望。NPBの12球団に、ドラフトでの指名を見送るよう要望した。都市対抗でチームを優勝に導き、橋戸賞を獲得した田澤は、その年のドラフト会議での1位指名が確実視される逸材だった。つまりこの田澤のアクションは、日本のドラフト1位クラスのアマチュア選手がドラフトを待たずにメジャー入りを希望し、それを実行に移した初めてのケースだったということになる。

 さて、そんな田澤に対してNPBはどうしたか。当然、この流れに歯止めをかけようとした。当時のNPBの実行委員会は、アマチュア選手の海外流失を防ぐための手だての一つとして、日本のプロ野球を経ずに外国のプロ球団と契約した選手に対し、日本球界に復帰を希望する際の制限を科すことを決めたのである。ドラフト対象となるアマチュアの選手がNPBのドラフト指名を拒否して外国球界でプレー、その後に日本へ帰ってきた場合、高校生は帰国から3年間、大学・社会人は2年間、ドラフト指名を凍結するという申し合わせで、これが“田澤ルール”と呼ばれているのだが、野球協約に明記されたわけではない。

 NPB側とすれば、ドラフトの目玉候補が毎年、田澤のように直接、メジャー入りを希望すれば、日本球界は草刈り場になってしまうという危機感があったのだろう。だから、互いのドラフトを尊重するという日米間の“紳士協定”を盾に、こんな報復紛いのルールを決めてしまったのだ。しかし、そもそもこの一連の流れには根本的な問題が横たわっている。

 それは、日米間に“紳士協定”は存在しているのかという問題だ。じつは、日米間には“紳士協定”と呼べるものは存在していない。だから、田澤の選択は何の問題もなく、NPBが制裁することはできないはずなのだ。当時の日米の球界には、ドラフトにかかりそうな選手は獲得のための交渉をしないという紳士協定が日米間に存在すると思い込んでいる向きがあったが、これは大いなる誤解なのだ。大谷翔平のときもそうだったが、日本のプロ野球組織の球団に過去も現在も属したことのないアマチュア選手に対して、NPBの球団が何らかの拘束をすることはできない。たとえドラフトで指名されようと、大谷にはファイターズを拒否してメジャーへ行く権利があった。

 NPBとMLBとの間には『日米間選手契約に関する協定』という、そこには、日韓、日中、日台の選手契約協定にあった「プロ野球球団とアマチュア選手との契約に関し、お互いの国にルールや制限があることを認識する」という条項がない。つまりは「だから手を出さないで」と主張する根拠が日米間には存在しなかったわけで、アマチュアだった田澤がメジャーの球団と契約することは何の問題もなかったのだ。

 今シーズンの田澤は開幕から思うような結果を残せず、マーリンズを退団。その後、デトロイト・タイガースとマイナー契約を交わして、現在、メジャー復帰を目指している。通算で21勝26敗、89ホールドをマークした田澤の今シーズンまでの総年俸は、2368万5000ドル(現在のレートで約26億500万円)になる。同じ年の国内ドラフト組ではホークスの摂津正が総年俸で26億3700万円(金額は推定)を得ているが、金額的にはこの二人の手にした年俸が飛び抜けている。メジャーを選んだ理由がお金でなかったことは承知しているが、田澤の選択を間違っていたとは、もはや誰も思うまい。

 だからこそ、田澤の動向に関わりなく、NPBはこのルールを今すぐ撤廃すべきなのだ。もともと紳士協定のなかった日米間で、アマチュア選手がどんな選択をしようが自由だ。日本で評価の高かったアマチュアの選手だけに、メジャー球団を選んだ場合の制裁を課すなんて、道理に合わない。そもそも田澤は、今さら日本のプロ野球の球団へ入りたいなどとは思っていないかもしれないが、ルール違反を犯していない田澤の名前が、俗称とはいえ制裁を目的としたルールにかぶせられていることに疑問を感じる。今のNPBに求められるのは、アマチュアの選手をメジャーへ行かせないということではなく、いかに日本とメジャーの行き来を容易にするかという次元での発想のはずだ。そういう選手が目の前に現れてからではなく、今、考えて撤廃を実行することがまず大事なのだと思う。

文=石田雄太 写真=GettyImages

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週刊ベースボール編集部

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