週刊ベースボールONLINE

伊原春樹コラム

ヘッドコーチは重要だが……その大切な仕事内容とは?/伊原春樹コラム

 

監督の考えをチームに浸透させる


2007年から4年間、原監督とタッグを組んだ


 私は2007年から10年までの間、原辰徳監督の下、巨人でヘッドコーチを務めた。非常に重要な役割だったが、ヘッドコーチ就任にあたり、誰かを参考にしたようなことはまったくなかった。私はヘッドコーチになる前、02年、03年は西武監督、04年はオリックス監督としてユニフォームを着ていたが、そのときはヘッドコーチがいなかったのだ。指揮を執っている間、不便に感じたこともある。特に「監督がここまで言う必要がないのにな」というようなことも、自分で口に出したりすることがあった。そういった経験から、自然とヘッドコーチがやるべきことを把握していたように思う。

 現在の12球団を見回しても、ソフトバンク達川光男ヘッドコーチやオリックス・西村徳文ヘッドコーチなど監督経験者も散見されるが、これは非常にいいことだと思う。現場の最高責任者を務めていたからこそ、分かることが多々ある。監督の気持ちを分かっていることは大きい。監督経験者にはヘッドコーチとして、やるべきことが自然と身についていることは間違いないだろう。

 ヘッドコーチの仕事で最も重要なことは「監督が考える野球をチームに浸透させること」になる。今春キャンプで各チームのヘッドコーチにもいろいろ話を聞いた。皆、だいたい同じようなことを言っていたが、そのために骨を折るのがヘッドコーチだ。他のコーチ、選手はもちろん、その対象はバッティング投手、ブルペン捕手、そしてトレーナーなど裏方にも及ぶ。チーム全体に監督の考えを共有させて、一体となることが、ペナントを勝ち取る最低条件となるだろう。

 私が巨人ヘッドコーチに就任した際、原監督が口にしていたのは「伊原さん、今のジャイアンツには“弱い選手”が多いんですよ」ということだった。ちょっとしたことでも「あそこが痛い、ここが痛い」と言い、試合を休んだり、最大限のパフォーマンスを発揮できない。レギュラークラスの選手なら多少、痛みがあっても試合に出なければいけないのは確かだ。それが高い年俸をもらっている責任でもある。そういった意識が欠如していた。06年、2度目の巨人指揮官の座に就いた原監督だったが、そこが4位に終わった大きな原因と考えていたのだろう。

 だから、まずその点を正すことが、私のヘッドコーチとしての大きな仕事になるだろうと考えた。「レギュラーとは何か?」。キャンプ中から厳しい言葉を選手に投げかけたと思う。徐々に選手たちも精神的、肉体的に強くなって、07年から3連覇を達成した。ただ、もちろん、それは私の力だけではない。07年にはガッツ(小笠原道大)、谷佳知、08年にはラミレスがチームに加わったが、彼らがお手本となって示してくれたことが大きかったのは確かだ。移籍選手の姿勢から既存の選手が学んで、チーム体質が変わって、まさに“強い選手”があふれるようになり、勝ち続けることができた。

さい配に口をはさまない


 私はさい配面に関して、口をはさむようなことはほとんどしなかった。基本的には原監督が試合中に「ここはどうしましょうかね」と尋ねてきたことに対して答えただけだ。もちろん、そのためにはつぶさに試合を観察し、戦況を見極めて、常に何を聞かれてもいいように準備しておかねばならない。監督に何かを聞かれたときに言いよどんでいるようでは、ヘッドコーチ失格だ。

 試合前には原監督と試合について、いろいろと話し合った。監督室で打順をどうするか、まず確認し合う。基本的には原監督がしっかりとプランを練って球場に来ている。だいたい、チームの調子がいいときは、そうそう打順を動かすことがない。ただ、チームの調子が悪かったり、調子を落としたりしている選手がいれば、ともに考えをめぐらすことがある。特に調子が悪い選手に関しては、結局は「練習で状態を見てから決めましょう」となり、実際に打撃練習でのスイングを見て試合で使うか、使わないか決断することが多かったように思う。

写真=BBM
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング