野村克也氏にオールスターについて聞くと、必ず出てくる話題がある。それは現役時代、
巨人の
王貞治と対決して抑え込んだことだ。
パ・リーグの南海に捕手として在籍していた野村氏。王とはオープン戦か、オールスター、日本シリーズでしか直接対決する機会はない。まずオープン戦で当たったとき、マスク越しに王の特徴に気づくところがあった。
誰しも「ホームランバッター=内角は危ない」という頭があるから、王のようなホームランバッターに対しては外角中心の配球となる。しかし、それでは王の思うツボ。実は王の一番強いコースは外角いっぱいとど真ん中のちょうど中間あたり。そのためセ・リーグの投手は外角中心に攻めていき、少し中に入ったところを痛打される傾向にあった。
野村氏はバッターを4つのタイプに分類している。A型=理想型、B型=内外角、直球か変化球に狙いをつけて対応、C型=打つ方向を決めて対応、D型=不器用なヤマ張りタイプ。王は天才タイプのA型だったという。基本的にはストレートにタイミングを合わせながら、変化球にも対応できる。
「王は荒川(博コーチ)さん直伝の“合気道打法”でコース、球種を絞るといった読みがない。だから、内角中心に攻めればいい。ただし、内角真っすぐはダメ。王はいつも真っすぐしか待っていない。そこで有効なのが、小さいスライダー(今で言うカットボール)。それなら芯で打ってもファウルになる。」
つまり、王の打ち取り方は内角へのストレートはボール球にし、内角で小さく変化するカットボールをファウルにさせて、カウントを稼ぐ。最後に決め球は――。
「バッターは得意なコースに欠点があるものだ。王の場合は真ん中から少し外角寄りのコースが得意。だから、そこからポトンと落ちるボールを投げる。すると、ボールを引っかけて、セカンドゴロ、ショートゴロに打ち取れる」
こうして、オールスターで王を抑え込んだ。野村氏は「セのバッテリーよ、見ておれ。王はこうやって攻めるんだ」という一心だったという。
文=小林光男 写真=BBM