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プロ野球仰天伝説

なぜ、バースはシーズン最高打率.389を残せたのか/プロ野球仰天伝説197

 

長いプロ野球の歴史の中で、数えきれない伝説が紡がれた。その一つひとつが、野球という国民的スポーツの面白さを倍増させたのは間違いない。野球ファンを“仰天”させた伝説。その数々を紹介していこう。

春先に不振も徐々に本領発揮


阪神・バース


 1985年は三冠王にMVP、チームも日本一と最高のシーズンを過ごした阪神のバースは、そのオフ、ほとんどトレーニングらしいトレーニングをしなかったという。高知・安芸の春季キャンプには初日から参加したが、ベストコンディションにはほど遠く、それはふっくらとした体つきからも見て取れた。

 案の定、春先は不調。4月は腰痛とカゼで3試合に欠場。さらに持病の左かかと痛、左手のひらのマメがつぶれるなどで打撃3部門すべてに出遅れた。チームがスタートダッシュに失敗した理由もここにあるのだが、このとき誰がバースの2年連続三冠王、そしてシーズン最高打率を予想できただろう。

 しかし、バースは5月下旬から少しずつ、しかし確実に前年の輝きを取り戻し始めるのである。

 復調したきっかけは5月24日からの横浜大洋3連戦だった。3試合で3本塁打を含む6安打8打点。31日には再び横浜大洋戦で4打数4安打、.346でついに打率1位に躍り出た。

 バースの猛打は止まらない。6月に入って巨人王貞治監督から「打席に入る前にバットの上方部に滑り止めのスプレーをかけている。ルール違反だ」とクレームがつき、審判部から警告を受けたが、バースは鼻で笑った。ささいなことを。やめると言うならやめてやるさ――26日には、その目の前で、王監督が持つ日本記録の7試合連続本塁打に並んでみせた。

 さらに7月には13試合連続打点達成と、こちらは堂々の日本新。開幕から自ら出場した69試合目まで4割をキープ。打率.399で前半戦を折り返した。

欠場も視野に入れた日本記録更新


 後半戦は再び4割に到達することはなかったが、それでも3割9分前後の高い打率をキープしていった。大きな調子の波はなく、本塁打、打点もコンスタントに重ねていく。2年連続三冠王が濃厚となるなか、しかしバースは4割、そしてそれ以上に70年に張本勲(東映)が達成したシーズン最高打率.383の日本記録更新を意識していた。

 バースは決めていた。残り20試合で打率.393。今後、もし日本記録まで下がるようなら、その前に残り試合を欠場する。一度、下回ったら、日本の投手は絶対に勝負してこないと確信していたからだ。優勝の可能性はすでにない。イラ立ちのなか、打席に立ち続ける気はさらさらなかった。

 しかし、バースの心配は杞憂に終わる。重圧をまるで感じることなく打ち続けたからだ。残り20試合、3安打の固め打ちこそなかったが、マルチ安打7試合、無安打も5試合にとどめた。日本記録.383を下回る気配はなく、最終戦まで出場して.389をマークした。

「正直、こんなに打てるとは思わなかった。ラッキーだったね」

 16年ぶりの記録更新。翌日、バースは何事もなかったように「来年もタイガースでプレーしたい」という言葉を残し、故郷オクラホマへと帰って行った。

写真=BBM
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