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“ファームの怪物”井上晴哉が覚醒した理由

 

本格開花した井上はカモメの四番として打線をけん引している


 井上晴哉が止まらない。ZOZOマリンでの開幕第2戦、楽天を相手に2本のホームランを放って井口資仁監督に初勝利をプレゼントし、お立ち台で「“春男”を脱皮します!」と高らかに宣言。その言葉を現実のものにしている。

 調子よく打つのは春先だけの“春男”。そう揶揄されてきた。ルーキーイヤーのオープン戦では打率.435で首位打者に輝き、球団として64年ぶりの新人開幕四番に抜てきされるも、以降は毎年のように春先での失速を繰り返し、期待を裏切り続けてきた。

 井口新体制で迎えた今季。新人年以来、4年ぶりに開幕四番を任された。「彼にとって今年はチャンスでもあり、ピンチでもある」。指揮官の言葉は期待の裏返しでもあるが、29歳となった5年目のシーズンが、正念場であることは確かだった。

 だが、やはり今年も悪癖が顔をのぞかせた。4月下旬からバットが湿っていき、5月の月間打率は.208。例年ならファームに落とされ、そのまま浮上することなくシーズンを終えているところだったが、新指揮官は辛抱強く井上をスタメンで使い続けた。

 潮目が変わるきっかけとなったのは扁桃炎にかかったことだった。6月13日に登録を抹消されてからの10日間、「体調は悪いのに、体力はどんどん回復していくのが分かった」。復帰してからはもう止まらない。離脱期間があったものの6月は月間打率.386の6本塁打、17打点、そして7月は打率.400、7本塁打、23打点の大暴れで月間MVPの有力候補となっている。

「メンタルですね」。金森栄治コーチの体の軸回転を使ったスイング、井口監督からアドバイスされたベース板の上で強いスイングを心掛けること。そうした技術面の進化を聞いたあとに、あらためて覚醒のきっかけを問うと、そう即答した。

「二軍では怖いモノはなかったし、できることはやってきた。でも『一・五軍』と言われるような立場で、上では結果ばかりを追っていた。そうすると自分のやりたいバッティングというのは二の次になってしまう」

 事実、ファームでの井上は怪物クラスだった。今季も含めて二軍戦で積み上げてきた5年間の通算成績は235試合出場、打率.344、44本塁打、165打点。「怖いモノはない」というのもうなずけるし、数字だけを見れば一軍に上がって結果が出ないほうがおかしい。

 だから、「調子が落ちたときでも試合に使ってもらえたことが僕の中では一番大きかったと思う」という。指揮官が我慢強く使ってくれることが分かっているから、多少結果が出なくても、自分のやりたいバッティングにトライすることができる。自分のやりたいバッティングで臨むことができれば、結果は自然についてくる。

「(ここまでの成績は)僕の中では出来過ぎ。だから逆に怖いモノがないです。(これからも)無心で行ける」。指揮官の厚い信頼に応え、ようやく自らの力を証明し始めた男が、簡単に止まることはなさそうだ。

文=杉浦多夢 写真=BBM
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