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2018甲子園

甲子園の魔物って何?『甲辞園』トリビア

 

このたび、ベースボール・マガジン社から『甲辞園』なる書籍が発売となった。掲載ワードは「560項目」で、甲子園マニアでさえ思わず「へ〜!」と言ってしまうネタが満載。その中から、ここではとびきりのトリビアを抜粋してお届けしたい。

「やっぱり魔物甲子園」


1987年のセンバツ、魔物を味方につけたPL学園が頂点まで駆け上がった


 甲子園で、一般的には考えられないことが起こると、人智を越えたなにものかの力が働いたとして、「甲子園には魔物が棲んでいる」と表現される。いつから使われ出したのかははっきりしないが、1975年の夏、秋田商と洲本(兵庫)の対戦を報じた朝日新聞のコラムに「やっぱり魔物甲子園」というタイトルがついている。

 地方大会で甲子園での試合を経験している洲本が、初回にミスを連発して5失点したのに対し、不慣れなはずの秋田商が堅実にプレーして勝利した。魔物は甲子園ではなく、監督や選手の心に潜んでいるという内容だ。タイトルに「やっぱり」とあるのは、それ以前の甲子園でも、理屈では考えられない、得体の知れない力が働くことがあるというイメージだったのだろう。

 87年春のPL学園(大阪)は、東海大甲府(山梨)との準決勝で4点のリードを許していた。だが突然、右から左への浜風が強まった6回。5安打を集中して同点とした。4本は風の影響を受けやすいレフトへのヒットで、そのうち2本は風にもてあそばれた野手が目測を誤ったものだった。結局この試合を延長でものにしたPLはそのまま頂点に立ち、夏も制して春夏連覇を果たしている。

 ぬかるむ足もと、強い浜風、突然の雨。そういう自然条件は魔物のお気に入りだが、一つの凡プレーが、眠っていた魔物を起こすこともある。87年夏、初出場の徳山(山口)は、東海大山形を1対0とリードして9回二死三塁。四番打者の強いゴロは、エース・温品浩のグラブに収まる。だが、温品の一塁送球が高く浮き、同点の走者が本塁を駆け抜けると、悪送球で二塁まで進んだ走者が次打者のヒットでホームイン。試合終了のはずが、悪夢のような逆転負けとなった。

 79年、箕島(和歌山)と星稜(石川)の一戦は、延長16回に星稜が勝ち越し、その裏の箕島の攻撃も簡単に二死。続く森川康弘は一塁ファウルゾーンに打ち上げ、さすがに決着かと思われた。ところが、星稜の一塁手が、ファウルゾーンに貼られた人工芝の継ぎ目につまずいて転倒し、捕球できない。命拾いした森川の打ち直しが、またも同点ホームラン……この激闘を延長18回で制した箕島は、春夏連覇まで駆け上がった。

 野球は筋書きのないドラマだが、ほとんどは筋書きどおりに決着する。だが、何百試合に1回かの確率で魔物が出現するからこそ、甲子園は面白い。

『甲辞園』(ベースボール・マガジン社刊)



写真=BBM
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