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2018甲子園

マンガから出てきた!? 折尾愛真・野元涼が夢舞台で演じた物語

 

変化に家族もビックリ


折尾愛真・野元は一冬で体重が24キロアップ。増量が飛距離アップ、そして本塁打量産につながった


2018年8月10日
第100回=1回戦
日大三(西東京)16−3折尾愛真(北福岡)

 マンガのような世界が甲子園で広がっていた。ウソのようだが、本当の話である。

 折尾愛真の五番・野元涼は北福岡大会で、準々決勝を除き、6試合で計6本塁打をマーク。

 1年時から量産してきたのかと思えば、高校通算29本塁打。今夏、強烈なインパクトを残したわりには、そこまで多くないのである。

 2年夏までは、補欠(背番号12の控え捕手)だった。福岡大会5回戦敗退後、パワーアップを目的に「食トレ」が導入された。白米をタッパーに入れ、缶詰をおかずに詰め込む。
好物は「サバの煮込みです」とニッコリ。

「1時間に1回で、1日、11回……(苦笑)。しんどかったです……。白米? 正直、飽きました」

 炭水化物を摂取したのと同時に、「筋肥大」を目指してウエート・トレーニングで「追い込みました」と、またも苦笑いを浮かべる野元。対外試合が解禁となる今年3月まで継続すると、目に見えた効果が表れた。

 オフシーズンを利用して体重アップする話はよく聞くが、野元は一冬で24キロ増の92キロ。規格外の数字は、飛距離につながったという。

「打った瞬間、全然、違うんです!!理由? 体重が増えたこと以外、考えられないです」

 3月以降で16本塁打を放ち、覚醒したのだ。

 体の使い方。幼稚園年中から小学校6年まで取り組んだ合気道のキャリアも生きている。「相手の力を使って倒すんですが、ボールの力を使ってバットを振る。通ずる部分があり、ボールを引きつけ、バットに乗せるイメージで打っています」。

 さらに、マンガのような逸話を披露する。

「実は小、中学、高校通じて、ホームランを打ったことがないんです」

 技術向上を素直に喜びたいところではあったが、ある“悩み”があった。

「どんどん大きくなって……。地元へ帰省したときに、知人が『どうした?』と……。あまりの変わりように、家族でさえビックリしていました」

 とはいえ、ウエートアップを引き換えに、折尾愛真にとっても、春夏を通じて甲子園初出場。大阪入り後も体力を落とさないため、宿舎では1日7合がノルマ。87キロのベスト体重で初の大舞台へと臨んだ。

 三番・一塁で先発した野元は日大三との1回戦で、素手で打席に入った。打撃用手袋を使用するのが当たり前の時代となっている中で、珍しいタイプ。バット1本で勝負する、職人のような雰囲気が漂っていた。

「夏前、最後の練習試合で素手で打ったら結果が出た。地方大会の6本塁打はすべて素手です。痛くないですよ」。練習量の賜物であり、両手の皮はガチガチに固まっていた。

「甲子園では、3本打ちたい!!」と意気込みを語っていた野元だったが、甲子園で力を出し切る難しさを体感した。

 試合は序盤から日大三に大量リードを許して、3対16で9回表の攻撃。先頭の野元は、第3打席に続く見逃し三振に終わる。「ストライクと分かっていても手が出なかった。自分が負けていた」と、4打数無安打。折尾愛真は最後まで全力を尽くしたが、マンガの世界のような奇跡の大逆転はならなかった。

 高校卒業後は関東の大学で野球を続ける予定。この日は北福岡大会に続き、投手として救援したが「大学でも(投打の)二刀流に挑戦したいと思っています」と前を向いた。

「今のままでは通用しないことがよく、分かった。あと半年で体を絞って、動ける体にして、大学で通用する選手になりたい」

 体重アップの次は「下半身強化」がテーマ。野元にとって、肉体改造の2期目を、今日からスタートさせる。今夏のように、信じられない世界を自らの手で作り上げるつもりだ。

文=岡本朋祐 写真=高原由佳
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