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2018甲子園

NPBスカウトに注目されたアグレッシブなプレー 常葉大菊川・奈良間大己

 

高校最終打席が納得のいく形に


8点を追う9回表、常葉大菊川の先頭・奈良間は左越えの三塁打。この一打が口火となって、3点を返す意地を見せている


2018年8月17日
第100回=3回戦
近江(滋賀)9−4常葉大菊川(静岡)

「万全の準備」がもたらしたヒットだった。近江との3回戦は1対9と、常葉大菊川は厳しい状況に追い込まれていた。しかし、主将・奈良間大己は前を向く姿勢を忘れなかった。8回裏、二死二塁から遊ゴロを軽快にさばくと、猛ダッシュでベンチへ。9回表の先頭打者は、すぐさま控え選手にグラブと帽子を預けると、ネクストサークルで用意。“自分の世界”を作って、ボックスへ入った。

 ここまで3打数無安打。カウント1ボール2ストライクからの内角低めのボールを、バットの先ながらミートし、高々とへ打ち上げた。滞空時間の長い当たりは、左越えの三塁打となった。一死後の犠飛で生還すると、またも、猛ダッシュとガッツポーズでベンチへ戻った。この時点で7点差も、まだ、あきらめない姿勢を体全体で表現して、ナインを鼓舞した。

 主将の姿がしっかりとメンバーに伝わり、続く四番・根来龍真が三塁打、そして2年生の五番・伊藤勝仁が2ランを放って意地を見せている(4対9)。

「奈良間はいつも、ウチの雰囲気を変えてくれる。尊敬するキャプテンです」(根来)

 常葉大菊川と言えば、ノーサイン、フルスイングが“お家芸”であり、その象徴が奈良間だった。2年ぶり6回目の甲子園出場を決めた静岡大会では打率.818(22打数18安打)と驚異的な数字を残している。一番・遊撃手。チームを活気づける理想のトップバッターであり、50メートル走5.8秒の俊足を生かしたディフェンスでも常葉大菊川のカナメだった。

 益田東との1回戦、日南学園との2回戦でも持ち味を発揮して3回戦進出。アグレッシブなプレースタイルはNPBスカウトの間でも注目の的となっていた。

 2試合で9打数3安打、1本塁打、2打点。3回戦を前に自身の打率を把握しているのかを問うと「知らないです」。打率.333と伝えると「数字のことは気にせずに、1打席1打席で勝負していきたい」と、話した。両手首にはテーピング。地方大会から抱える痛みと付き合いながらも「ファーストストライクから振っていく」と、自身のプレースタイルを貫いていく構えを強調していた。

 今大会は大阪桐蔭・根尾昂、報徳学園・小園海斗と好遊撃手が目立つ。奈良間は気になるショートとして、この2人の名前を挙げている。勝っている部分があるのかを聞けば「レベルの高さを見せつけられている。無理ですよ、あれは……。トータルに見ても勝負にならない」と、苦笑いを浮かべていた。

 常葉大菊川は3回戦で敗れたが、高校最終打席が納得のいく形となり、奈良間は「負けたことは悔しいですが、これまでやってきたことを出し切りました」と、試合後に涙はなく、すっきりとした表情で語った。卒業後は大学で野球を続けていく予定。2018年夏、甲子園の空気を変えることができる、記憶に残る球児の一人だった。

文=岡本朋祐 写真=高原由佳
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