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2018甲子園

金足農のエース・吉田輝星が快投を続ける4つの秘密

 

東北勢初の悲願まであと1つ


金足農は日大三との準決勝を制して初の決勝進出。吉田は秋田大会を通じて10試合を一人で投げ抜き、甲子園5試合では749球の熱投である


 34年ぶりに準決勝へ駒を進めた金足農が、日大三を2対1で下して、初の決勝進出を決めた。秋田県勢が夏の頂上決戦へと駒を進めるのは第1回大会(1915年)の秋田中(準優勝)以来、103年ぶり2度目のことである。過去99回、センバツを通じても東北勢が優勝したことはなく、第100回記念大会で新たな歴史が刻まれるか注目される。

 試合前にはPL学園OBの桑田真澄氏が始球式を務めた。1984年夏、金足農が準決勝で対戦したのが当時2年生エースだった桑田氏を擁するPL学園。金足農にとっては、さまざまな巡り合わせも重なった上での快進撃だ。

 原動力となったのは言うまでもなく、150キロ右腕エース・吉田輝星である。秋田大会から通じ、準決勝まで計10試合を一人で投げ抜いてきた。甲子園での球数は5試合で749球を数える。

 この無尽蔵のスタミナはどこからくるのか。4つの視点から、その謎を分析してみた。

 まずは、チームメート。金足農は吉田を含めて、野手の交代も一人もない「9人野球」で勝ち上がってきた。守るのは、全員3年生。難しいことはない。エースを援護する気持ちが一つとなっているのである。主将・佐々木大夢は言う。

「吉田の(好投が)大前提できている。でも、吉田一人では苦しい。『我慢』をテーマに、甲子園で一人ひとりが成長している。全員でカバーして、助けていきたい」

 吉田も仲間のバックアップにこたえてきた。

 次に体力。スタミナ源はお米にある。宿舎には農業関係者から地元産の「あきたこまち」が約200キロ差し入れ。同校OBである金足農・渡辺勉校長は「どんどん送っていただいてありがたいです。ふだんから食べているお米で栄養をつけているのが、力になっていると思います」と、明かす。

 そして、投球フォーム。連投に次ぐ連投で心配されるのが、故障である。自身も大阪大会、甲子園で連投経験がある桑田真澄氏は「ケガを最小限に抑えるフォームを身に付けて、ケガだけは気をつけてほしい」とエールを送っている。たが、吉田はすでに完成度の高い、理に適ったフォームだという。

 視察したオリックス・谷口悦司スカウトは言う。自身も現役時代は左腕投手だっただけに、話は専門的な分野にまで及んだ。

「下半身がブレない。股関節がグッときて、球持ちが良いんです。その股関節は柔らかさがあり、2、3個前でボールが放せているからあのストレートの伸びが生まれるのだと思います。強じんな下半身が支えている」

 最後に、練習量。金足農ナインが異口同音に「あれは苦しかった」と振り返るのが冬場の猛特訓だ。特に1月上旬の冬合宿が、苦しいときの「気力」につながっているという。野球用具は一切使わず、長靴をはいて1メートル近く積もった雪の中を延々走り込んだ。

 合言葉は「気力を出せば、体もついてくる」。

 猛暑の甲子園でも、金足農ナインはたくましかった。吉田はどんな場面でも冷静だった。

 泣いても笑っても残り1試合。吉田によると試合前、中泉一豊監督から先発を告げられることはないという。東北勢初の悲願へ――。

「絶対に勝って、優勝したい」

 吉田は明日の決勝も当然、投げる準備をする。マウンドは孤独だが、決して一人ではない。最後の1球まで、仲間が支えてくれる。

文=岡本朋祐 写真=高原由佳
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