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伊原春樹コラム

松坂大輔の新人時代からの印象深いひと言は……/伊原春樹コラム

 

西武時代は完投するのが当たり前



 1998年、横浜高で甲子園春夏連覇を果たした松坂大輔。同年秋のドラフト会議で東尾修監督がクジを引き当て西武に入団した。平成の怪物として注目を集めたが、高校野球とは違い、プロはストライクゾーンが狭い。しかも、大輔は荒れ球でボールが高めに行き、そのコースを高校生は手を出して空振りしたが、プロの打者は見極めるのではないかと思っていた。そのあたりが非常に心配だったが、それも杞憂に終わった。

 とにかくボールの勢いがえげつない。私が見てきた中では郭泰源のストレートも速かったが、それとは質が違う。横から見るだけだったが、たとえるなら泰源のストレートは手裏剣。細い体からピュンっとボールが打者に向かっていく。大輔の場合は大砲。投じられたボールがズドンとキャッチャーミットに収まる。打者からしたら、相当な怖さを感じる、やっかいなストレートだっただろう。

 初登板初先発となったのは4月12日の日本ハム戦(東京ドーム)。初回、片岡篤史に150キロのストレートを投じて空振り三振に仕留めたシーンが印象に残るが、あれも高めのボール気味の球。百戦錬磨のプロが手を出してしまうのだから、相当のキレ味があったのだろう。

 それと大輔が優れていたのはスライダー。タテ、横の変化を使い分けていたが、鋭く曲がるスライダーがあったからこそ、大輔は1年目に高卒新人ながら16勝を挙げることができたのは間違いない。余談だが、私が実際に対戦して、すごいと思ったスライダーはロッテにいた成田文男さんが投じたものだ。ストレートも速かったが、スライダーのキレ味も抜群。たとえるなら、トンボのようにヒュンッと目にもとまらぬ速さで横に曲がったものだ。

 大輔で印象深い言葉は何と言っても新人時代から「大丈夫です」のひと言だ。例えば東尾監督の時代、回も押し迫ってくると投手コーチが大輔の下へ状況を聞きに行く。特に大輔は球数が多い投手だから、どうしてもスタミナが気になってくるのだろう。

 投手コーチが戻ってくると、判を押したかのように「『大丈夫です』と言っていました」という。140、150球投げるのも平気なのだ。だから、そのうち終盤を投げ終えた大輔がベンチに戻ってくると、投手コーチが近づいてくるのを察して、スーッとよけるようにどこかへ行ってしまう。そんなことが繰り返されるようになった。

 大輔にとって完投するのは当たり前。成績を見ていくと西武時代の完投数は新人時代の99年から6、6、12、2、8、10、15、13となっている。3年目の01年に初めて2ケタを超えたが、私が監督となった02年は右ヒジを故障して登板数が14にとどまったこともあり2に減少。翌03年も8に終わったが、これは大輔に聞きに行くと「大丈夫です」と言うことが分かっているから、私は降板させるときに決定事項として「大輔、代わるぞ」と告げて降板させていたからである。

すべてを託す価値のある投手


 投手にはいろいろなタイプがいる。大輔のようにマウンドに執着する者もいれば、まったく真逆な反応を見せる者もいる。例えば西口文也は5回までいいピッチングをしていても、「ニシ、代わるか」と言ったら、不満げな表情を見せることなく、「はい」と言う。潮崎哲也もどちらかというと、そういうタイプだった。まあ、それはどちらがいい、悪いという問題ではない。それぞれの性質の違いというものである。

 とにかく大輔はチームの中心、信頼すべき投手であったことは間違いない。02年、開幕6連勝を果たしたところで、右ヒジに異常を訴えて戦線離脱。夏場に復帰したけど、状態はあまり上がらなかった。しかし、チームは独走でパ・リーグを快走していて、優勝は見えていたから「しっかりと調整してこい」と言い渡して、再び二軍で調整させた。やはり、日本シリーズで巨人に勝つには大輔の力が必要だと思っていたからだ。

 日本シリーズでは巨人に3連敗し、迎えた第4戦(西武ドーム)。先発した西口が5回まで2失点と好投していた。だが勝った場合、その後、逆転で日本一を勝ち取るために西口に連投を課す可能性もあるから、2対2の同点だったが6回から大輔に託した。結局、大輔は6回に3点7回に1点を失って、4タテを食らって日本一を逃したが、それは結果論。松坂はすべてを託す価値のある投手であったということだ。

 とにかく大輔には1日1日を大切に過ごしてほしい。自分で「大丈夫じゃない」と思うその日まで、好きな野球を存分に楽しんでもらいたい。

写真=BBM
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