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川口和久WEBコラム

少年時代の憧れの人にして、初代ゴルフの師匠、外木場義郎さん(川口和久WEBコラム)

 

外木場さん。笑顔だから投球練習かな


こっちは西武の菊池


 巨人菅野智之? いや、違うな。
 そうそう、西武の菊池雄星だ。
 彼を右投げにして一回り太くしたら、あの人になる。
 広島カープの大エース、外木場義郎さんさ。

 俺が本格的に野球を始めたのは、小学5年生くらいだった。プロ野球をしっかり見るようになったのもそのころからだね。
 
放送は、ほとんど巨人戦ばかりだったけど、ブラウン管に映っている中で一番「すごい」と思ったのが、外木場さんだった。

 当時はまだ巨人V9の後半くらいで、カープは低迷期のど真ん中だったけど、一人だけ別格だった。
 外木場さんの高めの速球に巨人打線がきりきり舞いになっていた。あとで調べたら完全試合1回を含め、ノーヒットノーラン3回でしょ。すごいよね。

 細身でしなやかなタイプではなく、排気量のでかいパワーエンジンがついている重戦車みたいに見えた。パワーピッチャーの先駆けと言っていいかもしれないね。

 俺がカープに入ったとき1981年、外木場さんは、もう引退してコーチになられていたけど、憧れの人だから最初は緊張した。でも、ものすごい優しい人だったね。

 当時のカープの二軍コーチには大下剛史さん、大石清さん。分かる人には名前だけで分かってもらえると思うけど、すごく怖い人たち。唯一、普通の、優しいおじさんが外木場さんだったんだ。怒るときは怒るけど、すぐ切り替えてくれたしね。

 俺は1年目の秋にアメリカの教育リーグに行ったけど、同行したコーチが外木場さんだった。

 パイレーツの宿舎に泊まってたけど、周りはほぼ何もないから休みの日はやることがない。俺が日本人だからじゃないよ。向こうの選手もあまりに外出はしてなかった。まあ、マリファナ吸ってクビになった選手もいたけどね。

 ある休日に外木場さんが「ゴルフに行くぞ」と。それまで俺はゴルフしたことないどころかクラブも握ったことなかったけど、まあ、暇だったんで「お願いします」と言ったんだ。
 近くのゴルフ場は、外木場さんの知り合いだったらしく、支配人に日本のウイスキーを1本持っていくとプレーをさせてくれたみたい。

 そこで俺、62と58で回ったんだ。すごいでしょ。俺、野球やめてゴルファーになろうかなって一瞬、真剣に思った。

 ただ、いま思うと外木場さんの教え方がうまかったね。
 まずゴルフはグリップだと、しっかり握り方を教わり、あとはクラブを振るという感覚ではなく、しっかりボールの手前に打ち込みなさいとだけ言われたんだ。

 要は、「振ろう」と思うとヘッドアップしてトップしたり、スライスしたりするからだろうね。
 大事なことをポイントを絞って言う。これもコーチングのコツだろうね。

 実際、ゴルフって野球に役立つことは多いと思うよ。投手であれば、手の使い方とかね。バッターに関しても、田淵幸一さんがコーチ時代、まったく飛ばないバッターにゴルフを教えたら飛ぶようになったという話もある。ヘッドを走らすコツみたいなものだろうね。

 投手コーチとしての外木場さんに言われたのは、ボールをリリースするのは最後の行程だから、そこまでの動きをきちんと整理して把握しなさい、ということだった。
 そして最後は腕をしっかり振ればいい、と。
 俺は若いころは肩の可動域も広かったから、振った腕が背中のほうにまで回った。顔は下向いちゃって捕手も見てない。
 でも、外木場さんはそれでいいと言ってた。俺もそう思うよ。投手は投げた後は野手になれ、と言う人もいるけど、そのために投球にメカニズムが中途半端になったら逆効果でしょ。

 考えてみたら俺のゴルフの最初の師匠で、プロ野球人としての最初の師匠が少年時代のあこがれの人だったんだ。俺って運があったのかな。
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