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コーチング・クリニック

広島・水本勝己現二軍監督が7年前にまいた「種」(コーチング・クリニック10月号)

 

伝統の育成力に新たなエッセンス


水本二軍監督


 スポーツの指導者、競技者向けの月刊誌『コーチング・クリニック』(小社刊)。最新10月号の巻頭特集は「チームビルディングの秘訣」だ。

 その中で、現在、球団史上初のリーグ3連覇に向け、セ・リーグの首位を快走している広島に注目し、キーマンにインタビューした記事がある。

 ただし、登場するのは、一軍の監督、コーチ、選手、スタッフではない。
 二軍・水本勝己監督だ。

 コーチング・クリニックの記事は、水本監督の一人称形式で4ページにわたるものとなっているが、ここではそれを要約し、掲載してみたい──。

 25年ぶりのリーグ優勝を果たした2016年は復帰組であるベテランの黒田博樹新井貴浩の存在が際立ったが、黒田は同年に引退。新井も徐々に試合数を減らし、先日には今季限りの引退を表明。それでも翌17年に優勝、そして今季もまた、3連覇を目前としている。

 軸となるのは、生え抜きの主力選手だ。FA選手の獲得競争に乗り出すことはほとんどなく、黒田、新井の復帰はあったが、大型補強とも無縁。外国人選手も全員ではないが、フランスアバティスタらはドミニカ共和国にある「カープアカデミー」出身者だ。

 丸佳浩鈴木誠也田中広輔菊池涼介松山竜平野間峻祥會澤翼ら野手陣、投手でも大瀬良大地野村祐輔岡田明丈九里亜蓮今村猛らを見出した「スカウトの目」と、彼らを厳しい練習と激しい競争の中で、一軍の戦力へと育て上げてきた「育成力」。これはカープの伝統ともいえるものである。

 ただ、伝統にも新たなエッセンスは必要だ。
 水本監督は従来の伝統をさらに豊かにさせる、新たなる種を7年前にまいた人物でもあった。

 ここで時計の針を戻そう。

「試合に出られない選手は三軍で預かります」
 11年、ブルペンコーチ補佐(ブルペン捕手兼務)から配置転換となった水本勝己三軍統括コーチ(現二軍監督)は、球団に切り出した。

 一軍登録できるのは最大28人。対してチームには、最大70人の支配下登録選手がおり、育成選手を含めれば人数はさらに多くなる。

「つまり、二軍はそれだけ試合に出られない人数も多いということ。そこで、私はそのように提案したのです」(水本二軍監督)

 それまで、三軍は故障を抱えた選手のリハビリの場だった。そこに、体力や技術が不足している若手を徹底的に鍛える役割を加えたのだ。
 
“1期生”となったのが、現在、広島のクローザーを務める中崎翔太だった。同年、宮崎の日南学園高から入団した中崎は、ドラフト6位指名。与えられた背番号は56で、即戦力の評価ではなかった。

「実際に、『キャッチボールが不細工だ』『足が遅い』という声もあり、試合で投げられる力はありませんでした。それならばトライしてみようと、基礎練習に時間を割きました」(水本二軍監督)

 走り込みで基礎体力を鍛え、投球フォームもつくり直した。三軍の育成プロジェクトで力を増した中崎は翌年に一軍デビュー。
 入団5年目の15年にクローザーに抜てきされると、リリーフの柱として16年からの連覇に貢献した。

即実戦で陥りやすい間違い


掲載のコーチング・クリニック10月号


 水本監督の進言もあって、11年以降、高卒ルーキーはドラフト順位に関わらず、三軍からのスタートが通例になる。

 今季もそこでじっくり鍛えられた高卒2年目の高橋昂也アドゥワ誠長井良太がそろって一軍初登板を果たし、将来を期待させるピッチングを見せた。
 
 水本二軍監督は育成に重要なポイントとして“秋”を挙げる。

「1年のうち、私は秋を非常に大切にしています。春から始まったシーズンが終わり、来季に向けての準備を整える秋季キャンプで、二軍の選手がどれだけ一軍スタッフの目にとまるかが勝負なんです」
 そう強調する。

 選手は当然、早く公式戦を経験したい。指導者もまた、選手の気持ちは痛いほど分かる。
 だが、課題の多いまま出場しても、欠点が露呈し、その修正に時間を費やさなければならない。

 それならばじっくりと時間をかけて力をつけ、成果を得られる状態でデビューさせたほうが効率的だ。

「春は体づくりに専念し、夏から徐々に実戦を増やし、秋に向けて経験を積ませていきます。そして秋のキャンプで、『来年は一軍の戦力になるんじゃないか』と思ってもらえることが重要なのです」

 ブレることのない育成方針。目先の結果にとらわれないこの根幹が、次々と新戦力が台頭する好循環につながっている。

「選手たちを“うまくさせる”という信念と、“うまくさせたい”という願望を欠いてはいけない。その決意の下、われわれ広島カープのスタッフ一同は力を合わせています」
 
 連日真っ赤に染まり、ファンの声援がこだまするマツダスタジアム。その陰で、未来を担う赤き赤ヘル戦士たちも、着々と腕を磨いている。

取材・文/吉見淳司(コーチング・クリニック編集部)

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