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石田雄太の閃球眼

球数制限を1試合ではなく、大会ごとに設定するという発想/石田雄太の閃球眼

 

準優勝した金足農のエース・吉田輝星


 デジャヴかと思った。
 
 巨人へ行きたい――かつてはよく耳にしたフレーズである。この言葉を甲子園の生んだスーパースターが口にするのは久しぶりの感覚だった。スポーツ紙の一面にはこんな見出しが躍っていた。

「輝星、巨人行きたい」
 
 いやはや、ワクワクするような歯切れの良さだ。この夏の甲子園で準優勝を成し遂げた金足農のエース、吉田輝星が、子どもの頃から巨人ファンだったことを公言し、将来の夢は「プロ野球選手」だと言った。そして、巨人へ行きたいかと問われると、「行きたいです」と即答したというのである。問題山積の巨人にドラフト候補生たちはあまり輝きを感じなかったせいか、最近は「巨人へ行きたい」というシンプルな言葉を耳にすることはあまりなくなっていた。

 そこへ、吉田である。
 
 輝く星という名は、まさに“巨人の星”を地でいっている。久しぶりに現れた甲子園の本格派右腕。エースナンバーがこれほど似合うピッチャーはいない。吉田が望むならぜひ巨人へ入って、エースナンバーを背負ってほしいと思う。同時に、吉田がプロで活躍することで、杞憂に終わって良かったと思わせてほしい問題もある。それが、球数の問題だ。

 吉田が秋田大会から甲子園の準決勝までを1人で投げ抜き、決勝で途中降板するまで甲子園で881球もの球数を投げたということから、球数制限をすべきだという声が喧しい。そもそも何球までなら大丈夫だという基準も明確ではないのだが、監督の自制心に期待するしかない中、酷使が目立つ現状にあっては、無制限でいいとだけは言えなくなっているようだ。

 とはいえ、球数制限があったら金足農が甲子園の決勝まで勝ち進むことは難しかったに違いない。球数制限がなかったからこそ、吉田が1人で投げて、金足農は勝ち進んできた。結果、吉田が野球好きからもプロのスカウトからも注目されるようになったのは、甲子園で怪物ぶりを発揮したからにほかならない。そう考えると、球数制限は吉田のような選手の芽を摘むということにもなりかねない。

 実際、1つ負けたら次がないトーナメント方式で戦う夏の高校野球に球数制限を採用すれば、レベルの高い選手を集めやすい私立や強豪公立校に有利に働くことは明白だ。しかも、本当に球数制限が取り入れられたら、序盤からファウルや待球で球数を投げさせて、相手ピッチャーを早々にマウンドから引きずりおろしてやる、といった戦術を公言する監督もいる。

 ならば1つ、提案がある。

 甲子園での球数制限は1試合ではなく、1大会ごとに制限してみてはどうだろう。組み合わせ抽選の結果、1回戦から戦う高校はたとえば大会の試合数6×120球で1人、1大会720球まで。2回戦から登場する高校は、それが600球。その球数をどう割り振ってもいい。つまり初戦は何球投げても構わない代わりに、勝ち進んでいくほど複数のピッチャーが必要になるというわけだ。

 要するに、球数を投げさせているのは監督なのだ。高校生は「行けるか」ときけば「行きます」としか答えない。そういう高校生をいかに大人が守るかという視点に立つならば、投げさせなければ済む話だ。しかし、それでは勝ちたいという選手たちの本意に添うことはできない。勝ちをあきらめることなく、ピッチャーを守ることが監督には求められている。だから監督にたとえば「今大会、ピッチャーごとに600球まで」という球数制限を課す。それをやりくりして勝ち進むことと、ピッチャーを守ることの両方を監督に目指してもらう。

 それでも球数制限は結局、私立や強豪校に有利に働くだろう。しかし、ピッチャーが一人では、それがたとえ豪腕・吉田であったとしても、決勝では思うように体は動かなかったのが現実だ。選手の身体を守りたい気持ちはどの監督も持っていながら、どこまで投げさせれば潰れるのかが分からないまま、目の前の勝ちを求めてしまうジレンマに陥っているように映る。選手にしても、勝ちを放棄してまで身体を守りたいとは思わないし、実際に潰れることを実感できていないからこそ、つい無理をして投げようとしてしまう。

 そういう現実が問題視され始めた今、球数制限が解決につながるというのなら、それを1試合ではなく、大会ごとに設定するという発想があってもいい。いずれにしても、考えるだけで前へ進まないのは論外だ。もはや、何かを実行しなければならないということだけは間違いない。いろんなアイディアを持ち寄って、まずやってみるという姿勢が、今の高校野球には求められているのだと思う。

文=石田雄太 写真=BBM
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