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川口和久WEBコラム

若き“風つかい”、ソフトバンク・大竹耕太郎は大化けする?(川口和久のWEBコラム)

 

風はピッチングも難しくする


頭脳的なピッチングには感心した



 久しぶりにパ・リーグのラジオ中継で解説をした。 
 放送業界にも、最近、ねじれがあってね。
 俺は、ラジオはずっとTBSにお世話になってきたんだけど、TBSがラジオのプロ野球中継から撤退したんで、そっちの仕事は基本的になくなった。

 ただ、地方のTBS系列局に流すとき、たまにだけど声がかかることがある。
 今回は福岡のRKBでのロッテソフトバンク戦(ZOZOマリン)。TBSじゃなく、文化放送のスタッフで、みんないい人ばかりだったけど、やっぱりちょっと不思議な気がした。

 TBSラジオのスタッフとは付き合いも長いし、戦友みたいなもんだからね。
 まあ、いろいろな都合があるから仕方ない。

 ソフトバンクは9月4日の火曜からの3連戦だったけど、火曜は台風の影響で風速20メートル以上の強風が吹き荒れ、中止。水曜の2戦目は風速10メートル以上の中、試合はやったけど、ソフトバンクは、レフト・長谷川勇也がバックしたら打球がショートの後ろに落ちたりと、風の影響を受けまくり、3対11で大敗した。

 6日、木曜が俺の担当だったけど、さすが風の名所だね。台風は遠くに行ったはずなのに、この日もすごい風だった。俺がグラウンドに出たときも風で飛ばされそうになったからね。表示を見たら9メートル、試合中は11メートルあったらしい。

 ただ、仲がいいソフトバンクのコーチ、水上善雄さんに「大変ですね」と言ったら「カワ、今日はそよ風だよ、マリンにしてはね」と笑ってた。

 セ・リーグでは、横浜スタジアムも風が強いときがあるけど、マリンは比べものにならない。
 いままでパの選手はセよりタフって書いたことがあるけど、解説者の俺までヤワになっていたな。

 雨と違って風はなかなか試合中止にはならないが、あれだけ吹くと野球が完全に変わってくる。
 さっきも触れたフライ処理の難しさもそうだけど、ピッチャーにとってもかなり難しい球場だ。

 マリンの風は、海がある外野方向から吹いてくるけど、それが抜けていかない。バックネット側に当たって返ってくるんだ。
 要は投手にしたら、背中から追い風、正面からは逆風を感じる球場だね。

 プロのピッチャーは、自分のボールのラインを持っている。ストレートはこの軌道、変化球はこう変化する、というね。無風のドーム球場では、制球力の差はあるけど、それに合わせて投げやすい。

 それが屋外球場は風があるから、投げる球のラインに影響が出る。マリンの場合は特にね。

 1995年、オリックス野田浩司が、強い風が吹き荒れたマリンで19奪三振の日本記録を作ったことがある。もともと“お化けフォーク”と言われるほど、すさまじく落ちるフォークがあり、三振が多いタイプだったけど、あの日はバックネット方向からの逆風を受け、ほぼ真下に落ちていた。

 ただ、変化球は大きく曲がればいいというわけじゃない。制球が定まらないし、最初からボールになると分かれば打者は振ってこないしね。

 だから、投手は風に応じた曲がりの計算をしながら投げているはずだけど、マリンくらい強くなると風がストレートにも影響を与えてしまう。低めは風に負けて沈み、真ん中より上は風に乗って浮く、とかね。

 こうなると、試合の中で修正、修正を繰り返さなきゃいけない。俺も経験あるけど、投げていて、ほんと嫌になるよ。
 必ず海沿いのゴルフ場で開催される全英オープンを見ているような気分だね。

コンピューターを内蔵したような男



 前置きが長くなった。

 あの日は、ロッテのベテラン、涌井秀章とソフトバンクの大竹耕太郎が先発。大竹は広島から巨人に移籍して、最近名前を聞かなくなったと思ったら、いつの間にかソフトバンクに……。
 違った。大竹寛じゃない。あいつは二軍で投げている。早く上がってこないとクビになってしまうぞ。

 で、こっちの大竹は、早大から育成ドラフトで入団し、7月末に支配下になったばかりの23歳の新人。売り出し中の左腕だ。

 そうは言ってもロッテ戦もマリンのマウンドも初めて。申し訳ないが、映像以外で大竹のピッチングは見てなかったこともあり、「これは風を知っている涌井有利だな」と思った。

 それが完全に脱帽さ。涌井と比べ、どっちがベテランか分からないくらい落ち着いて老練なピッチングだった。しかも抑えても打たれても平然としているのがいい。
 野球はガッツポーズをしたらアドバンテージがもらえるスポーツじゃないからね。
 
 結局、7回1失点だったけど、風をうまく使い、ロッテ打線を翻ろうした。

 ソフトバンクもおかしな球団だね。ドラフト1位で鳴り物入りで入った田中正義高橋純平がさっぱりなのに、育成からは投手は大竹、千賀滉大石川柊太、野手は甲斐拓也牧原大成でしょ。ほんと、スカウティングがいいのか悪いのか分からないチームだね。
 
 大竹の課題はとにかく球が遅いこと。あの試合も140キロ出てなかったからね。

 もちろん、頭にコンピュータが内蔵されているみたいタイプで、遅い球を速く見せる技術もある。オーソドックスな大きなフォームから長身を生かしてしっかり角度をつけていた。
 あの試合に関していえば、完全に自分のラインのイメージができ、風を利用してカーブ、チェンジアップといった緩い変化球もうまく使っていた。

 今シーズンはもう終盤だから、問題は来季以降かな。いまは、球は遅いけど、左腕と情報の少なさで抑えている部分はある。相手が自分のデータを調べ上げたうえで、どれだけ勝負できるかじゃないかな。

 そのためにも、オフは、いま持っている自分の良さを消さずに、あと5キロ、球速は上げてほしい。

 それができたら、とんでもない投手に化けるかもしれないよ。

週刊ベースボール編集部

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