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70年前との邂逅、新たに進化する世界の女子野球

 

女子野球ワールドカップで6連覇を達成した女子日本代表。写真中央が里投手だが、そのカーブの回転量はメジャー投手をもしのいだ


 8月末、フロリダ州ビエラで女子野球ワールドカップを取材した。決勝で日本が台湾に6対0の快勝、6連覇を果たし、エースの里綾実投手は3大会連続のMVPに輝いた。

 興味深かったのは、日本のスポーツファンの反応。「女子野球なんてつまらん」、「他国が力を入れていないだけ」と無関心で否定的な声を聞く一方で、「女子が野球を続けるのは大変。男子と一緒に練習しても公式戦には出られず、小学校の途中でやめる。やめずに頑張ってきた子が残るから強くなる」。「パワー、スピードは劣るけど、細かい技術や女性特有のしなやかさが良い」と内状に通じ、強く支持する声もあり、両極端だった。

 大会にゲストとして呼ばれていたのがシャーリー・バーコビッチさん。1943年から54年に存在したオールアメリカンガールズプロフェッショナルベースボールでプレー経験を持つ方だ。このリーグは、マドンナが主題歌を歌い、出演もした92年の映画「A LEAGUE OF THEIR OWN(邦題=プリティ・リーグ)」で紹介されている。

 アメリカでも、女性は妻として母として、家事に勤しむのが当然とされた時代。男のスポーツでお金を稼ぐなんてとんでもないと風当たりは強かった。トム・ハンクス演じる、アル中の元メジャー・リーガーは監督を引き受けたものの、最初は「冗談じゃねえ」と冷ややかだった。しかしながら戦争で、マイナーチームから男子選手がいなくなった時期に、地方の町で年間110試合をプレー、最多でシーズン100万人を動員、人々を楽しませた。

 特に盛り上がったのが今から70年前の48年シーズンだったという。今回、筆者自身も女子野球を興味深く取材した。MLBの野球はパワーとスピードに偏重していく一方で、チームスポーツとしての戦術的な細かさ、緻(ち)密さが失せていると感じる。

 対照的に優勝した日本女子チームは、基本に忠実で、チーム一丸で1点を取り、守りに行く。足りないのはパワーだが、その方面でも、今後進化していくことだろう。

 今回の大会ではアメリカやカナダの選手が飛距離100メートル越えの本塁打をかっ飛ばした。日本の橘田恵監督は「私たちより体の大きい国では、ホームランの数が非常に増えた。1点差で簡単に勝てない。一発を警戒しながら野球をしないといけないのは今後の新たな取り組み」と指摘していた。

 ワールドカップは今回で8回目、大会ごとに各国のレベルは上がっていく。そんな中、名実ともに世界の頂点に立つのが里投手だ。今回は弾道測定器のトップ企業フライトスコープ社が、1球1球の回転率、打球速度など細かいデータを出していたが、担当者のアントニオ・ムヒカ氏が「里投手のブレーキングボールは平均2400回転、最高で2583回転、MLB投手の平均より上」と舌を巻いていた。

 彼女の変化球は鋭く曲がるのは回転率の高さゆえである。アメリカ戦は7回二死までノーヒットノーランの快投。決勝の台湾戦では、調子が今ひとつだったが、それでも5回無失点だった。男子にも負けないスピン量。70年前の大先輩たちも誇りに思ってくれたに違いない。

文・写真=奥田秀樹
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