週刊ベースボールONLINE

川口和久WEBコラム

河田雄祐、自分の苦労を選手の喜びに変える男/川口和久コラム

 

カープ時代のかわいい後輩


カープ時代の河田。いぶし銀の選手だった


 今回のテーマは、大坂なおみにしようか。
 
 実は俺、彼女とね……いや、冗談、まったく何もネタがない。

 餅は餅屋。要はいつものコラムです。

 少し前になったけど、9月9日、DeNAヤクルト戦の解説で横浜球場に行ったときの話を書こう。
 TBSのCS放送だったけど、ハマスタに着いたらTBSのアナウンサーがニヤニヤしながらやってきて、
「河田さんが、川口さんまだ来ないんですか。解説なのに遅いですねと言ってましたよ」と。
 あの野郎、余計なことを。
 ヤクルトのコーチ、河田雄祐。俺にとってはカープ時代の弟分、いや、言い方が悪いな。かわいい、かわいい後輩なんだ。

 ヤクルトのベンチに行ったら、あいつニコニコして「遅いっすね」と言ってきたから、まずは「うるせえよ」と。
 このやり取りだと、俺がいつも球場に着くのが遅いみたいに思ったかもしれないが、そんなことはないよ。 
 彼とのお約束のあいさつみたいなやつね。
 
 広島がまったく“別セ界”に行ってしまった中で(このダジャレうまくない?)、ヤクルトが頑張っている。昨年あれだけ負けまくって最下位だったのに、2位も見えてきた。

 好調の要因はいろいろあるけど、今季、広島から移籍した河田と石井琢朗という2人のコーチの力は大きい。特に走塁の意識がまったく変わったのは、河田の功績と言っていいんじゃないかな。

 あいつは1986年にカープに入ってきたんだけど、ほとんどが代走と守備固めだった。当時のカープは選手層が厚く、外野のレギュラーの席が空いてなかったからね。しかも、打撃は俺のほうがいいくらいだったからね。

 ただ、それでも広島で10年、さらに西武に移籍して7年できたのは、それだけ守備、走塁が光り、また野球に取り組む真しな姿勢が首脳陣に評価されたからだと思う。

 カープには帝京高から入ったんだけど、すごく先輩を敬うタイプで、俺もよくあいつをメシに連れていった。
 本当は、野手と野手が行くことが多いから、「野手と行ってこいよ」と何度も言ったんだけど、「いや、僕は川口さんがいいです」って、なぜか離れなかったんだ。

 引退後は西武のコーチをしていたけど、2015年のオフ、あいつから電話があって、
「川口さん、西武クビになりました」。
「これからどうするんだ」って聞いたら「決まってません」と言うから、「じゃあ、広島に連絡してみろよ」と。
 そしたら、ちょうどカープもコーチを探していたらしく、めでたく就任が決まった。

 選手が移籍で脚光を浴びた、という例は多いが、コーチもいる。ただ、裏方だからなかなか注目されることはない。
 それが大ブレークだよね。
 チームの走塁を変革し、選手から慕われ、連覇の功労者としてマスコミにも高く評価された。

 広島だけでなく、西武を経験したのもよかったんじゃないか。どちらもレベルの高い細かい野球をする。そこでもまれ、走塁コーチ、三塁コーチャーとしての腕を磨いた。
 ひいき目なしで素晴らしいコーチになったと思う。あいつが選手として苦労した姿も見てるだけに、すごくうれしかった。

 石井とのコンビもよかったんじゃないかな。2人が意気投合し、どうやってチームを立ち直らせるか、必死に考え、根気よくやった。2人も情熱あふれ、根性あふれというタイプだからね。
 
 すごいと思ったのは、三塁コーチャーとしての評価。だれを育てた、とかいう漠然としたものではなく、第2の監督と言われるポジション、得点に直接絡む判断を瞬時にし、逆に失敗したら目立つ。そこで河田は適切な判断を続け、選手からも監督からも信頼された。

 今回ヤクルトに行って、2人で広島時代と同じことをしている。故障持ちのバレンティン山田哲人も痛い顔をしながらも抜かなくなった。

 河田、石井だけじゃなく、もちろん、宮本慎也ヘッドコーチもそうだけど、今年のヤクルトはコーチが新しい風を吹き込んだ。
 だれが考えたのかな。あれだけ悲惨な最下位だったのに小川淳司監督は復帰だし、選手の大型補強もしなかった。
 だけど、“闘う”コーチを外から集めた。
 こういう風の起こし方もあるんだな、と思った。

 広島には大差だから、ほめすぎと思うかもしれんが、俺は河田の苦労も見ているからね。

 カープ時代、控えでもくさらず、生き残るために必死に努力をしてた。そこで磨いた走塁、守備の技術は素晴らしいし、何より心構えには、頭が下がる。
 いま、あいつは汗にまみれ、血がにじむような努力をして身につけたものを、選手の喜びに代えている。
 少し大げさな書き方をする。
 頑張ってこうやれば、ここまでできるんだ、ここまでやれば勝てるんだ、勝ったらこんなにみんなで喜べるんだという、彼の経験というか、生き様みたいなものだね。
 それを伝え、広島でもヤクルトでも選手がこたえてくれている。
 よかったな、河田。俺もほんとうれしいよ。

 ……と、きれいにまとめたけど、最後、一つ余計な話も書いておこう。

 現役時代、俺は酒が大好きで、いろいろ無茶な飲み方をした。
 ひとつは「カラオケ一気」。
 1フレーズ終わるごとに一気飲みをして、4人くらいでやるから大体1曲でボトル1本が空く。

 あいつもそこに連れていって、半ば無理やり飲ませた。完璧にべろべろになって、「ああ、こいつはもう二度と俺たちと飲みたいとは思わんだろうな」と思っていたら、
 翌日、笑顔で「川口さん、次にまたお願いします!」って。
 その後もよく飲んだな、河田。1晩でボトルが3、4本空いたからね。

 たださ、時々思うんだけど、俺、あんな飲み方しなかったら200勝してたかもしれない。
 
 あ、後悔はまったくないよ。楽しかったし、河田もふくめて大好きな仲間たちと一緒だったしね。じじ臭いことを言うけど、あのころの馬鹿騒ぎもまた、いまとなると俺の宝物さ。

写真=BBM
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング